《MUMEI》

吐き捨てるように呟き、刃を突き刺す
一瞬の間の後、多量に流れる血液、倒れる相手
深い黒の中、流れ出る血液はひどく鮮やかだ
「……播磨は、壊すつもり?私が造った、この(夜)を」
問うてくるその声はかすかに震え
播磨を恐れるかの様に後ずさりを始める
何も答えられずに居てしまえば
「嫌。私はもう一人にはなりたくない。誰か、誰か――」
叫ぶ様な声に呼応し、黒の中から何かが湧いて出る
ソレは、大量のヒトの骨
自分は人を喰う化け物の中に居る
早くでなkれば、と辺りを見回すが見えるのは目の間に広がる黒ばかり
唯一在るのは、目の前の存在だけだ
「……何で、こうなんねん」
助けてやりたいと、思って居たのに
この(夜)を終わらせる為にはやはり、日和を手に掛けるしかないらしい
「播磨、私と一緒に ――」
「姫さん。ホンマ、堪忍」
言葉を遮り、播磨は刀を日和へと向ける
刀を首筋に宛がい、だがそれ以上何も出来ず播磨は止まったまま
「……嫌やわぁ。本当」
「播磨?」
どうしたのかと首をかしげて見せるその仕草は幼少の頃のまま
懐かしいソレが、播磨の決心を更に鈍らせる
情に流されるな。今、成すべきは ――
「……またな。姫さん」
日和の顔が見えないように目を閉じ、播磨は刀を引く
「……嫌、嫌ぁ!(夜)が流れていく私の中から(夜)が!!」
同時に日和の叫ぶ声が聞こえ始め、播磨は目を開く
播磨が刺し抜いたであろう其処から黒い何かがあふれ出る様
異様としか言い用がないソレに、だが播磨はどうすることも出来ないでいた
「……播磨。播磨」
名を呼びながら手を伸ばしてくる日和
その手を取ってやりながら、播磨はその身を抱いてやる
「……迎えに、来たったで。姫さん」
せめて、最後にあの時言ってやれなかった言葉を
段々と体温を失っていく日和を抱きしめてやりながら、何度も伝えてやる
あの時も、こうやって日和の手を取りたかった
嫌々となく日和を連れて家を出てやっていれば、こんな事にはならなかったと
しても遅い後悔を今更にしてしまう
だが、その後悔の渦中に在る播磨へ
日和はまるで子供に戻ったかの様な笑みを浮かべて見せた
「やっと、迎えに来てくれた。寂しかったよ、播磨――」
「今まで、一人でよう頑張ったな。もうエエよ。ゆっくり休みぃ」
とんとんと背を叩いてやれば、日和の瞼が落ちて行く
このまま明けることの無い夜へと一人落ちていこうとするのを
だが播磨に止める術はない
何故、いつも自分には無いも出来ないのか
全身から力が抜け、播磨へと凭れ掛かってくる日和の身体を抱きしめてやりながら
せめてもの供養に、と播磨は目を閉じたのだった……

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