《MUMEI》

ハッピーバースデー....
トゥ・ユー〜♪


ハッピーバースデー....
トゥ・ユー〜♪


耳元で優しい歌声が聞こえる。
父と母の歌声だ。
二人が食卓に座るアヤの肩に手を置いて、身をかがめながら、両側からアヤの耳元に歌いかけているのだ。
アヤの前のテーブル上....
いつもより豪華な食卓の真ん中には、巨大なケーキが鎮座している。
何しろ今日は、アヤの誕生日であると同時にクリスマスイブでもあるのだから。
それにしても、パパが早く帰って来て良かったわ、とアヤは想う。
せっかくママが作ってくれた料理も冷めなくてすんだ。


ハッピーバースデー....
dear....
アヤ....
ハッピーバースデー....
トゥ・ユー〜♪


歌い終わると両親は笑いながら拍手をし、アヤにケーキのろうそくの火を吹き消すよう、促(うなが)す。
アヤは少し意識が遠のくくらい、思いきり息を吸い込んだ。
続いて溜めに溜めた空気を11本のろうそくに向けて、一気に噴射する。
10本のろうそくの火が消えたが、1本の火は揺らめきながら、しぶとく消えず残っている。


見てなさい!


素早く息を吸い込み体内に新たな空気を充填(じゅうてん)し、
いざ、噴射....
しようとするアヤの目前で、何者かの仕業によりろうそくは吹き消されてしまった。
その犯人とは....


もうパパ!
何て事するの!!


アヤは小さな拳で父ダイスケの腕に殴りかかった。


あはははは、ごめんごめん!


あなた。それは無いわよ。


母もアヤに同調している。


二人を敵に回して、さすがに父も罰が悪そうだ。


だが追い詰められた時決まってやる父の変顔に、ふくれっ面のアヤもこらえきれず、


吹ぶふふーーーーっ!


思わず、吹き出してしまった。


本当にあなたったら、お茶目なんだから。


ワクワクしながら見守るアヤの眼の前で、母がケーキを切り分ける為にテーブル上の包丁を取り上げた。


ゴクリ、


唾を飲み込むアヤの眼の前で、包丁の刃がゆっくりケーキに刺し込まれる。


ドロリとケーキの切れ目から赤い液体が溢れ出した。

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