《MUMEI》

溢れ出した液体が白いテーブルクロスを汚し、ゆっくりと広がっていく。
母は何事も無いかのように、にこにこ笑いながら、さらにケーキに包丁を入れている。
赤い液体はテーブルを伝い落ちて、床に池を作り始めた。


「ママ!イチゴシロップがこぼれているわ!!」


アヤの声が聞こえないかのように、母は相変わらず満面に笑みを浮かべていた。


背後に立つ父に助けを求めようと、アヤは振り返った。


そこに父は居なかった。


黒いサングラスにスーツの男が立っていた。


男はかがみこんでアヤの肩をガッと掴み、耳元でささやいた。


「お嬢ちゃん、イチゴシロップじゃないんだよ」


アヤは絶叫した。


アヤの絶叫に答えるように、世界が振動した。


部屋の壁にビシビシと亀裂が走る。


その亀裂からも赤い液体がドロリと流れ出した。


液体は天井からも垂れ落ちてくる。


アヤの髪の毛を伝い、眼の中に流れこむ。


世界がひとつの色へと染まっていく。


赤い血の色へと....。

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