《MUMEI》
誰よりも女の子。
僕と千雨に繋がりがあることが殖野さんに露見した。
殖野さんが一瞬見せた戸惑いと、二人の関係が近しいことから、僕と千雨のことを知って近付いていったわけではなさそうだ。
だがしかし、安心などできない。
殖野さんがまだ僕を狙っている(獲物として)以上、千雨に危害を加えないとは言い切れない。
なんとか丸く納める方法はないものか。



翌日の朝、下駄箱には1枚しか手紙はなかった。
「こ、硬本」
「へいへい」
震える手。硬本が代弁する。


『昨日、千雨ちゃんからあなたのことを聞きました。驚きました。まさか私の好きな人が私の親友と恋人だったなんて。あなたが私を避ける理由はわかります。でもお願いです。たった一度。一度だけ、私と会ってくれますか?放課後、体育館倉庫の前で待っています』


いつの間にか、震えはなくなっていた。
「昨日と同じ差出人とは思えねえな……」
硬本が呟く。
硬本から手紙を受け取り、自分の目で読む。
途中、字が歪んでいる箇所がいくつか発見できた。
水に滲んでいるところも……。
こんなにも素直に、こんなにも一所懸命に書いたもの。
僕は彼女を誤解していたのかもしれない。
過去になにがあったのかは知らない。
愛情表現が極端なのかもしれない。
でも、これを書いた子は……きっと誰よりも女の子だったはずだ。
手紙を綺麗に折り目の通りに畳み、胸ポケットに入れた。
放課後、僕は行く。
そしてちゃんと断り、謝る。
そこをちゃんとしないと、彼女だって浮かばれない。
「頑張れ」
僕の表情から察したのか、硬本が言う。
僕はそれに頷いた。

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