《MUMEI》
密室。
放課後、僕は体育館倉庫の前に訪れた。
まだ殖野さんの姿はない。
昼休み、僕は千雨に全て話した。
あまりこういうことを話すことはダメだと思ったが、やはり彼女に嘘はあまり憑きたくない。
流石に殖野さんが相手だということは躊躇われた。なので千雨には話していない。
ちゃんと断る、とは言ったが、やはり千雨は辛そうにーーーーーならなかった。
「付き合っている男がモテモテだと、その彼女である私は気分がいいのです」
………………え?なにそれ。なにヶ原さんですか?
ま、まぁいいでしょう。ちゃんと許可は得たし……。
………………もっとジェラシー感じて欲しかった………………。
それにしても、遅い。
周りを見回すが、いない。
というか、人通りがない。
硬本が「そういえばそこって告白スポットじゃん。人通りないし大声出してもバレねえしな」と言っていた。
へ、へええ。告白スポットをチョイスするとは、可愛いじゃないか。うん。
ただ立っているのにも疲れ、倉庫の扉に寄りかかった。
その瞬間、扉がいきなり開いた。
「うわっ」
受け身取れずに倒れる。
ポフ、と柔らかいマットが敷かれてあった。
そして、ピシャンと扉が閉まった。
………………なんだと。
「晴斗さん」
背筋が氷った。目を見開くと、微笑む殖野さんが扉の前にいた。
小さい窓の微かな光が殖野さんの顔半分を差す。
目に……光彩がない。
はっきり言って、ちびりそうになるくらい怖い。超怖い。
「こうして会うのは久しぶりですね、晴斗さん」
体がカタカタと震え出す。完全にトラウマだ。
「あ、あの……話すだけなら中じゃなくてもいいよね……?暗いし、出よう」
「ああ、無理です」
「へ?」
「ここ、中からじゃ出れないんですよ。鍵壊れてて」
なん………………だと………………。
「じゃあ閉じ込められたってこと?」
「はい」
「どういうつもりなの君!?」
理解できない。………………いや、理解しているが、したくない。わかりたくない!
「男女が密室ですることと言ったら、決まってるじゃないですか」
「そんなこと言いながら上着を脱ぎ始めるんじゃない!!」
脱ごうとする殖野さんの両腕を掴む。
「というかあの手紙!すんごい女の子らしかったのに、一体どうしたの!?」
「ああ、オ○ニーしながらだったから字が変に歪んじゃって。文も頑張ってあざとくしたんですよ!」
てへ、と舌を出す。
は、はは、はははははははははははああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!?????
僕の決意とか色々………………全っ部台無しじゃないか!!
しかも手紙が滲んでたのって、アレか!?アレなのか!?なんてものを手紙に掛けてるんだ!!
つーか一切反省してない!
このままじゃ僕の貞操の危機だ!なんとかして逃げなければ!!
「えい!」
「あ」
殖野さんに押し倒される。しまった!油断した!
「えへ。マウ〜ントポジショ〜ン」
しかも両足で僕の両腕を封じている。身動きができない。
ばばばばっ、とブレザー、Yシャツのボタンを手慣れた手つきで外し、僕の上半身が露になる。今日Tシャツを着ていなかったことを悔やまれる。
「なっ、ちょっ、待って!」
危ないものを触るように慎重に、殖野さんは僕の胸板に触れる。
「やっぱり、かっこいい」
「え」
「晴斗さんは優しいし、私好みの肉付きもしてて……ますますあなたのことが好きになってきました」
「なっ、なに言ってるの!?」
頑張って抵抗し、右腕がようやく開放され、僕の上から退かそうと手を伸ばす。
殖野さんは僕の右腕を掴み、躊躇なく自分の左胸に押し当てた。
「んなっ」
むにゅ、とした感触が手のひらに広がる。どうやら着痩せするタイプらしく、見た目よりおっぱいは大きい。千雨には及ばないが。
「すごく、ドキドキしてますよね?」
確かに手のひらに鼓動を感じる。恐らく普段より早い。
「大好きです」
さらに鼓動が強まる。
「………………でも、僕には」
ここまで言わせたんだ。僕も言わねばならない。
「ごめん、僕には好きな人がいるんだ」
殖野さんの瞳は揺れ、涙が溢れる。
「はい、知っていました」

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