《MUMEI》

ガチャーーーンッ!!


窓ガラスの砕け散る音と共に、雪嵐が部屋の中に吹き込んで来た。
黒い塊(かたまり)が転がりながら部屋の中に飛び込んで来て、中腰の人間の姿になるのを、アヤはぼんやりと見つめた。
飛び込んで来たのは、父のダイスケだった。
父は両手に二丁の拳銃を構えたまま策敵(さくてき)するように、周囲をうかがっている。


まるで安っぽいアクション映画のヒーローみたい....。


アヤは部屋の隅で膝を抱えてうずくまったまま、そんな父の姿に思わずくすくすと笑ってしまう。
全身がお湯でもかぶったかのように、べたべたと濡れているのが気持ち悪い。
服にも両手にも赤い液体が付いていた。


父はアヤの方をちらりと見ると立ち上って、今度は台所や奥の部屋の方の様子をうかがい始めた。
その芝居じみた、いつもとは違う真剣な父の顔に、アヤはますます笑いが込み上げ、ククククッとヒステリックな笑いを洩らす。


ダイスケはひと通り他の部屋の様子を見ると、元の部屋に戻ってきた。
母の上体を抱き起こし、胸に耳を当てていたが、アヤの見守る背中がやがて震え始めた。
だが再び頭をもたげアヤに見せた横顔は鋭く眼が光り、部屋の惨状を冷静に観察している。


「ではこれも、ナイトヘッド・プロジェクトが生んだ、結果のひとつだと言うのか....?」


苦々しい吐息と共に、言葉が吐き出される。
その眼の奥には苦悩の色がある。


「貴様らが少しでも多くの苦痛を感じて、あの世に行った事を俺は願うぞ....」


二人の黒服の侵略者の、末路を見ながら呟いた。

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