《MUMEI》

その動揺は段々とひどくなり、お天道様は狂ったかのような甲高い叫び声をあげた
暫くその様を見ていた片岡だったが
お天道様の腕をとっさに引くと、その身を抱きしめ
「な――!?」
陽光に全身焼かれ、火傷を負いながらも片岡は離してやることはしない
手を離してやることは容易、だがその後また同じように握ってやれるとは限らない
「……何故、そんなに優しいの?」
「?」
「……貴方の様な慈悲が、他の人間にもあればよかったのに」
片岡の腕の中、お天道様が僅かに呟く
その小さな声に、よく聞き取れなかったらしい片岡hが聞き返そうとした、次の瞬間
「もう、いい。所詮私はお天道様ではなかった。後は、貴方に任せるわ。七星」
言葉の終わりと同時にお天道様が片岡の腕から消える
何事が起ったのかと辺りを見回せば、陽光の真っ只中
その全てを受け止めようとするかの様にお天道様は無い両の腕を広げた
「……もう、いいわ。戻ってきて、私の、中に」
陽光を全て抱き込んだかと思えば直後
弾けるようにその日差しは消え、そしてソレに伴いお天道様の姿も消えていた
まるで、跡形もなく
「あっけない、幕切れでしたね」
その湯オスに暫く呆然と立っていた片岡の背後
声に気付き向いて直ってみれば六星の姿
嘲る様な笑みを浮かべる六星へ、片岡は睨む様な視線を向ける
「全てを変えるのは、あの方ではなかった。また、待つとしましょうか。新たな、お天道様を」
のどの奥で笑う声を上げながら踵を返す六星
また、繰り返されるのだろうか。こんな事が
それだけは在ってほしくはないと片岡は六星へと向け、脚を蹴って回していた
素早いソレに六星は反応が遅れ、片岡のケリをもろに戴いてしまう
首が折れる音がはっきりと聞こえ、そして
「……私を、殺すのですか?矢張り、ヒトというのは傲慢な生き物――」
言葉も途中に六星は事切れ、その身を天道虫のソレへと変えていった
「……悪かったな。七星」
其処に立ち尽くしたままでいる七星へ
片岡は困った様な笑みを浮かべ、短い謝罪
その声に七星は我に帰り、片岡へと首を振って見せ
天道虫へと変わった六星を手の平へと掬い上げた
「……私たち天道虫に取って、この姿に戻れるのは、救い。ありがとう、主」
俯き、嗚咽に肩を揺らしながら、それでも片岡へと笑みを浮かべる
七星の手の上の、小さな天道虫
徐々に指先へと移動し、そして飛んだ
飛んで行った先を目で追えばその先、あの一つ星の人物の姿を見つけ
七星が何かを言おうとした矢先、相手は踵を返し
手を振るだけで、何を言う事なくその場を後にした
「帰るぞ。七星」
暫くその差を眺めていた七星
その頭を片岡は徐に掻いて乱し、そして歩き出した
その後を数歩遅れて付いてくる七星
途中、片岡の着物の裾を僅かに引いた
何かと振り返ろうとして、片岡はやめた
すぐに七星の嗚咽が聞こえてきたからだ
今は、泣き疲れてしまうまで泣かせてやろうと
片岡は歩みもゆるりと、自宅までの道程を遠回りに帰ったのだった……

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