《MUMEI》

顔に吹きつけてくる寒気と、周囲の雪嵐の叫喚が、ぼんやりと半分眠っていたアヤの意識を目覚めさせた。


と同時に激しい悲しみをも....。


ダムが決壊するように両目から熱い液体が溢れ出す。
アヤは嗚咽(おえつ)しながら、まるで機械のような力で、自分を運んで行く父の顔を見上げた。
右脇にアヤを抱えた父は、ひたすら無言で走りながら、ただ前方の闇を見つめている。


その無表情な顔を、アヤは憎悪した。


何故早く帰って来てくれなかったの?!


そうすれば、ママは....


ママは....


アヤは泣きながら父の腕を引っ掻いた。


父は相変わらず無言のままだ。


腕にミミズばれが出来ても何も感じていないかのように....


ただひたすらアヤを何処(いずこ)かへ運ぶ機械と化したように、前方を向いて走り続ける。


そしてアヤは見た。


父の眼から、一瞬光る筋が頬を流れ伝っていくのを....。


それはすぐに冷たい風にさらわれ幻のように消えてしまった。

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