《MUMEI》 「………っ?」 (どうして…?) 彼はそっとカナを抱きしめた。やさしく、壊れやすいものを抱えるかのように、彼の逞しく長い腕がカナを包む。 「…泣きたいだけ、泣けばいい」 (ぶっきらぼうな感じがするけれど、カナのこと慰めようとしてくれているの…?) 彼の行動、それが彼なりのやさしさなのだろう。その言葉が、その温もりが、カナの傷ついた心を癒やしていく―――。 「…もう、大丈夫です」 彼はゆっくりと腕を解いた。その途端。 「ァ………」 (熱い…。フラフラする…) 雨で冷えたカナの身体に、溜まった疲労が押し寄せた。その疲労に耐えられない身体は悲鳴をあげる。 「大丈夫か…っ!?」 カナは彼の方に倒れ込んだ。 前へ |次へ |
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