《MUMEI》
旅の行先
ラミアたちが宿にチェックインしてから半刻。

荷物を下ろし、重たい寒冷地用のコートを脱ぎ捨て、ラミアはベッドに飛び込む。

「寝床確保ぉ!!」

白くふかふかの布団の温もりを感じた途端、身体中に安堵と疲労がどっと押し寄せてきた。

10畳程度の広さの宿泊部屋は、予想以上に暖かかった。

ロビーと同じ赤色の絨毯の上には二つのベッドが並んで備え付けられており、その足元では赤レンガの暖炉がパチパチと音を立て燃えている。

赤くぼんやりとした炎の色は旅に疲れた体を自然と微睡みに誘う。

「ふぁ‥‥」

かつてないほどの大あくびをしてこんにゃくのように横たわると、右隣から「そんなに疲れているくせにあの学者と話なんぞできるのか」とそっけない言葉が飛んでくる。

「‥‥」

そういえば居たんだった‥。と、空き部屋数の関係で同室になってしまった相方の存在を思い出す。

隣を見やればふたつ目のベッドに、仏頂面で座る青年の姿があった。

武器はフロントに預けるようスタッフに言われ、半ば強引に魔剣を取り上げらたために現在は手ぶらである。そのせいか、物凄く機嫌が悪そうだ。

「いつまで拗ねてるの」

呆れ半分に返すと、青年は冷ややかな態度を崩さずに呟く。

「お前が話を聞くのは勝手だが、余計なことは言うなよ」

忠告なのかただの嫌味なのか、押し付けるようにそれだけ告げると、さっさと毛布にくるまってしまった。

デルタが魔剣士であることを黙っていろという意味だろうか。

いつもいつも、分からないことばかりだ。
今もこうして、本物の魔剣士が目の前にいるというのにもどかしさばかりが募っていく‥。

「ねぇ‥だったら教えてよ」

シーツを固く握りしめ、意を決して問いかける。

「魔剣って‥何なの?」

「‥‥俺にも、分からない」

「え?」

予想外の回答に固まるラミアに、青年は毛布をはぎ、むくりと起き上がって続ける。

「俺は‥それでも構わなかった。ただ力があればそれで良かった。だが、お前は違うんだろう?」

切れ長の瞳に見据えられ、ラミアは一瞬息を詰まらせるも、やがてすうっと息を吐き出し、少しずつ、自分の意思を言葉へ変えていく。

「そう‥よ。私は‥私が欲しいのは、壊す力じゃない」

だから初めて魔剣を目にした時、絶望した。
今でも鮮明に覚えている。人を異形へと変貌させ、禍々しく圧倒的な暴力で敵をねじ伏せるその光景を。

「でも‥でもね。私、力を振るう貴方を見ても、怖くなかった‥。偽物の魔剣に取り憑かれたあの化物とは違う‥魔剣の本質は、破壊なんかじゃない。そう直感したの」

きっと、魔剣は使う人間次第で神にも悪魔にもなる、そんな代物なのではないか。

「俺の使い方は間違っている‥と?」

珍しく考え込んでいるような表情で訊いてくるデルタに、ラミアは静かに首を横に振った。

「わからない。だから今、貴方と一緒に旅をしてるの。それが何かを、見つけるために」

そして、いずれは、私の故郷を‥。

最後の言葉は胸中にしまい、彼女もまた、灰色の瞳を真っ直ぐに青年へ向ける。

「貴方の目的は、貴方が話したくなるまで訊かない。でも、魔剣について知っている事があるなら、やっぱりそれは教えて欲しいの。私も出来る手伝いがあるなら協力するから」

強い意志を秘めたその言葉に、今度は青年がたじろぐ。

デルタという青年は、生まれてこの方こんなに真摯にモノを言ってくる人間と出会った事がなかった。ただ一人、剣と生き方を教えてくれた師を除いては。

返事に迷う彼の耳朶を不意にコンコン、と乾いたノックの音と、次いでなよなよしい男の声が打つ。

「あのぅ‥ラミアさん?ハイネです‥良かったら夕食ご一緒しませんか‥?」

「あっハイネさん!?ごめんなさい今行きます」

慌ただしくブーツを履き、ドアに駆け寄るラミア。
ガチャリと錠の開く音がして「デルタも早く支度して来てよ」と言い残し、部屋を後にする。

一人残されたデルタは、救われたような、気に入らないような、複雑な気分で自らの手を見つめた。

言えなかった‥。自分の目的は世に存在する全ての魔剣を破壊すること‥。即ち、ラミアの希望を打ち砕くものであるという真実を。

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