《MUMEI》 本当にそうなのだろうか? 矢も盾もたまらず父の跡を追っては来たものの、私が望んでいる事は父に抱きしめられ、その胸に顔を埋めて泣く事なのだろうか? 老婦人の指摘する通り、今、アヤの父に対する想いは複雑だった。 愛情とも憎しみとも、自分では判断できない感情が渦巻いている。 とりあえず、もしも今眼の前に父が居たとしたなら、妻の死と娘の存在とゆう『現実』から眼を背(そむ)け、神のペンなどとゆう『夢物語』に逃避している父の卑怯さを糾弾し、ためらわず往復ビンタを食らわせてやる自信があった。 だが実際その時になれば、老婦人が言う通り、すべてを許してしまうのかも知れない。 どちらにしろ、父に会わなければ何も始まらない。 アヤの時間は『無情にも』、父が五年前に自分を修道院に『棄てて』いった日から止まったままなのだ。 だから父を追う。 それは同時に、『神のペン』を追う事とイコールであった。 前へ |次へ |
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