《MUMEI》 アヤが物想いに耽(ふけ)りながら、窓外のぽつぽつと点在する田畑や家を眺めていると、砂ぼこり舞う道の行く手に巨大な石のアーチが見えてきた。 アーチには『ここより無銘国.... 来る者は拒まず、去る者は追わず』 とゆう文字が刻まれていた。 その言葉が示す通り、バスは何の検閲も受ける事なく、アーチの下を速度も落とさずくぐり抜ける。 物心ついた時にはルシアの片田舎で暮らしていたアヤにとって、父の手紙の説明に書かれていた『ジパングの死国よりやや大きいくらい』とゆう、国土の面積は実感がわかなかったが、恐らく『メタリカ合衆国』の州くらいの大きさと思えば良いのだろう。 観光案内の説明によれば、元々は芸術家達の小規模な共同体(コミュニティ)であった集落が、 次第に世界中から集まって来た様々な種類の芸術家達によって膨れ上がり、現在のような独立国として認められたらしい。 石のアーチ....国境をくぐり抜けたとたんに、周囲の風景も一変した。 それまでの人家のまばらな荒地では無く、道路などもしっかりと舗装(ほそう)され、小綺麗な住宅地の建ち並ぶ 多量の人間が暮らしているらしい、町らしいたたずまいに変わる。 さらにバスが進むにつれ町の景色は賑わいを増し、丈(たけ)の高い建造物、高層マンションなども目立つようになって来た。 この国の風俗なのか、町中の広場のような場所では、大道芸や路上バンドなどパフォーマンス的な事が盛んに行われている。 国境を潜ってからアヤの眼は、何かを探し求めるように、そうした風景の上をさ迷っていたが、やがて、 「あっ!」と叫び声を上げると、 「運転手さん、止めて下さい!」 座席越しに前方に怒鳴った。 「......」 耳が遠いのか聞こえていないのか、運転手の背中は何の反応も無い。 「止めてーー!!」 「ふぁあ?怒鳴らんでも聞こえるがなぁ」 キギィッ.... 運転手ののんびりした声と同時に、旅行バスが老朽化を思わせる軋み音を上げ、 止まる。 前へ |次へ |
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