《MUMEI》 晩餐宿に隣接するレストランは閑散とした街並みに沿ってがらんどうもいい所だった。 長方形の煉瓦を積み上げて造られた建物の内部は、丸い形のテーブルが不規則に設置され、その最奥では巨大な暖炉からすすけた煙突が伸びている。 天井からは人が乗れそうなほど立派なシャンデリアがひとつだけぶら下がっているものの、古びているのかあまり明るさはない。 他にも壁の至る処に掛けられた絵画や、装飾品、どれをとっても軽く10年は経っていそうな年季ものばかりだ。 無論テーブルには白く清潔なクロスがひかれているし、木造の床はピカピカに磨かれている辺り、決して投げやりな商売をしている訳ではなさそうだが‥ 「昔は‥もう少し活気のある街だったらしいんですけどね」 テーブル越しに座ったハイネの呟きに、ラミアは徐にステーキを切るナイフの手を止めた。 「らしいって事は‥ハイネさんも他所からこの街に来たんですか?」 どこか寂しげな目で雪の窓を見つめていたよれよれスーツの男は、「ええ。まあ」と相槌を打つ。 「以前はは南の方で魔剣の伝説を巡る旅をしていました」 まともな収穫はありませんでしたけど、と苦笑交じりに付け加え、コーヒーを少し口に含む。 「そうだったんですか‥実は私たちも南から来たばかりだったんですよ」 ラミアの場合はデルタとの出会いという大収穫があったわけだが、それをハイネに話すことは出来ない。 ー余計な事は言うな。 先刻の会話が頭を過る。 「収穫なしってところもお揃いですけどね」 歯痒さと、微かな罪悪感が波立つのを感じながら、ラミアもまた笑いかける。 私たち、というフレーズで思い立ったのか、「そういえば」と、ハイネが辺りを見回し始める。 当然探しているのは‥ 「お連れの剣士さんは‥」 「ごめんなさい‥来るようにとは言っておいたんだけど‥」 あの様子ではおそらく来るまい。 小動物のようにピリピリと警戒心を尖らせ、怯えるように攻撃性を剥き出していた部屋での様子が思い浮かぶ。 「私でよければ、何でも訊いてください」 答えられるかどうかは分かりませんが、と断りを入れることを忘れず、ラミアはせめてもの贖罪のつもりで、自身の考え、そしてデルタの魔剣に関わる情報以外全ての経験をハイネに語った。 前へ |次へ |
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