《MUMEI》

「じろー君だー。」

国雄さんがと朝を越え、夕方帰りだった。フラフラとした足取りで歩いてる。香水なのか大人の匂いだ。


「く、国雄さぁん」

涙ぐむ。


「よしよし、お兄様が聞いてしんぜよう。」

頭を撫でてくれた。国雄さん、いい人。




国雄さんの片付いた部屋に入って玄米茶を飲みながら乙矢のことを愚痴る。


「乙矢君やっぱりそうだったんだー。いやに落ち着いてるなとは思ってたよ。隠すの上手いね。」


「……気付けなかった」

何で秘密にしてたんだろ。俺が嫌うとでも?


「二郎君とは普通の友人でいたかったんじゃない?大切にされてたんだよ。
ホラもう気にしなーいの。ハイ。」

国雄さんが煎餅をくれた。醤油味が胸に染みる。涙がまた……


「国雄さん優しい……」

大人だ。てか、密かに七生の面影があるかも。国雄さんのが北欧顔で色香がたっぷりだけども。

……七生ごめん。


「優しいのと聞き上手は違うよ。優しいってのは二郎君みたいな人に言うんじゃない?誰かが泣いたら側に居るでしょ。
俺は自分の好みじゃないと相手にしないし。」


「俺なんてただお節介なだけで……」


「心のままに接するのは中々出来ないことだよ。



振る舞い過ぎると危ないから気をつけてね。本気にしちゃうから。」

微かに笑いながら国雄さんが煎餅を噛じる。


「危ないって……」

こんな凡庸な男が何に気をつける必要があるんだろうか。


「なな君だけに見せる表情も作りなよ。計算もときには必要だ。」


「そうですね……」

七生だけ……。すれ違いばかりで紗耶香ちゃんのとき以来会えてない。本当は七生に泣き付きたかった。
七生はバイト長いし、いつもの相談役の乙矢はなんか変だったし。

でも七生に会ったらエロいことされそうだ。ただ一緒に居るだけでいいのに。
触られるのは嫌じゃない。嫌じゃないから怖いんだ。


「複雑な顔してる……。なな君のこと考えてるでしょう?」


「出てるんですか?」

自分の頬を押さえた。そんなに解り易いのか。人にはよく当てられる。


「なな君絡みはすぐ解る、それだけ想ってるってことでしょ?

そだ、君達何処までいったの?」

そうやってさらっと聞いてしまう国雄さんはやっぱり大人だ。


「いや、その辺は……」

恥ずかしいというか。

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