《MUMEI》
4
「志鶴君、ちょっとお邪魔してもいい?」
騒動も一段落つき、ようやく本当の夜がきた
だがその夜に以前の様な賑わいはなく、播磨宅の表戸が開いた僅かな音だけがやけに響いた
入っても大丈夫かと改まって窺いを立ててくる相手へ
播磨は飲んでいた猪口を置くと相手を手招いてやる
相手は物静かに頷くと、播磨の横へと腰を降ろした
「えらい静かやんな。どした?」
「……別に、何でもない」
何でもないと言う顔ではない
大方、今回の一件の事を色々と考えこんでしまっているのだろうと
相手の頭に手を置き、髪を掻き乱してやる
「……志鶴君は、辛くないの?」
その問いに、播磨は答えて返す事はしなかった
唯々苦笑を浮かべて見せるばかりの播磨へ
「志津君が、一番辛かったね」
ソレを改めて聞く事は酷なことだと
相手はごめんを一言、それ以上何を聞くこともしなかった
その配慮に播磨は礼を返し、そしてまた猪口を手に酒を一口
空になってしまった徳利に酒を注いでくると、相手を縁側に残し台所へ
酒を注ぎ戻ってみれば、相手はすっかりそこで寝入ってしまっていた
これでは風邪を引いてしまう、と播磨は自身の羽織を掛けてやり
その傍らへとまた腰を降ろし、目の前に広がる夜を眺めながら
「……一番しんどかったんは、姫さんやったな」
あんな肩いでしか救ってやれなかった事を悔い
せめて穏やかな夜が毎晩迎えられるようにと願いながら
播磨はゆるり、酒を煽り始めたのだった……

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