《MUMEI》
猜疑の欠片
「おかしいと思いませんか?」

不意に向けられた問いかけに、ラミアは「え‥」と間抜けな声を上げながら胸の内で何かが反応するのを感じた。
それはラミア自身もまた、この魔剣の話にどこかひっかかりを覚えていたからかもしれない。

「何故、魔剣は失われてしまったのでしょうか‥?」

「それは‥もう役割を終えたから‥」

これまで考えもしなかった疑問に、返答が詰まる。
しかし、今思えば魔剣を追っていれば至極当然に行き着くはずの意見だった。

200年前の伝説の何処にも、魔剣の行く末は記されていない。つまり、人類は役目を果たした魔剣に興味が無かったという事だろうか?

「僕は思うのです。世界を救う程の強大な力を、人々は容易く手放せるものでしょうか?」

悶々と滞るラミアの思考とは対照的に、ハイネの声には徐々に熱が入っていく。

「今もこうして、偽物が出回るくらいに力を求める人間はいます。そもそも、まだ伝説からはたったの200年しか経っていない魔剣が、どうしてこんなにも見つからないのでしょうか」

「それは‥」

答えられない。
一体何故自分はこれまで、何の疑念も抱かずに魔剣を追って来たのだろう。

自問自答の狭間で固まるラミアに、ハイネは「これも僕の推測でしかありませんが‥」と、少し得意げに演説めいた自論を口にした。

「おそらく、当時の有力な国家‥現在ではヘルム帝国、カノリア王国、セイラン共和国、そしてレイダームと呼ばれている主要国家の間で、抑止力として今尚利用されているのではないかと」

「抑止力‥?」

「魔剣誕生から50年後‥つまり今から150年前、資源と領土を巡って大規模な国家間戦争があったのはご存知ですね?」

「っ‥‥」

知らない訳がない‥。

ラミアの中で、焼け爛れた故郷の記憶が蘇る。

始めはヘルムとレイダームの二国間で起きた小さな争い。それが周囲に飛び火し、やがては世界中を巻き込んだ大戦争へと発展した。老若男女、この世界に生きる人間に、知らない者はいないだろう。

10年に渡る戦火は世界を焼き尽くし、現在もその爪痕は人種差別や国境問題として残っている。

直接ではないといえ、この戦争さえ起こらなければ、ラミアが魔剣を求めて旅に出る事もなかったのだから‥。

無意識に袖を握り締めるラミアの様子には気付かず、ハイネはなおも語り続ける。

「魔剣は失われていません。ただ、その存在は意図的に隠蔽されている‥世界を牛耳る、一部の人間によってね」

「何で‥断言できるんです?あの戦争と魔剣に何の関係が‥」

声が震える。嫌だ‥考えたくない。

ラミアの意思に反し、彼女の思考はすでに一つの答えを導き出していた。
しかし、それを口にしまいと無理矢理にでも拒絶する。

なぜなら‥それが本当なら‥ラミアの希望は本当にただの夢物語になってしまうから。
そんな事を考える人間がいたなんて‥信じたくない。

そんな祈りも虚しく、ハイネは再び彼女に残酷な真実を突き付けた。

「この地に眠るかつての魔剣士‥サラの日記から、150年前の戦争で、魔剣が兵器として使用されたという記録を‥見つけたんですよ」

魔剣は‥人の命を奪う道具として使われたのだ。

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