《MUMEI》

カウンターの向こう側では筋骨たくましい禿頭(とくとう)の大男が、こちらに背を向けて、棚の瓶を整理している。


アヤはゴホンと咳払いした。


さぞ振り返る顔はごついであろう、とのアヤの予測を裏切り、大男は岩のような顔貌に頬紅(ほおべに)を差し、色鮮やかな口紅を塗りたくったオネエキャラであった。


「いらさーい。あら、見かけない顔ねぇ。もしかして旅のお方かしら?
ビールにします?それともウィスキーにします?」


「オレンジジュース」


即答する。


「渋いね、姉ちゃん」


急に野太い声に変わると、大男は注文の品を納めたグラスを、素早くアヤの眼の前に滑らせた。


「ども....」


ズズズ....


グラスの中身が半分に減るまで、一気にストローで吸い上げると、写真をカウンターの上に置く。


「ところでお尋ねしたい事があるのですが....」


******************

5分後....
肩を落として、とぼとぼとカフェバーを出て来るアヤの姿があった。


(まさか、チェーン店だったなんて....)


店のマスターの話では、この『無銘国』の中に同タイプの店舗が数百はあるとゆう。


とてもアヤひとりの能力で捜索できる範疇(はんちゅう)を越えていた。


アヤは途方にくれて佇んだ。
見知らぬ街にただひとり、とゆう自分の立場が不意に重くのしかかってくる。
言い知れぬ孤独感が、アヤの心に襲いかかってきた。


そのアヤの精神に追い討ちをかけるように、ぽつぽつと雨が降りだし、あっとゆう間に土砂降りに変化した。


屋根のある建物の陰に逃げ込んだ時には、すっかりずぶ濡れになってしまっていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫