《MUMEI》
1
烏の泣く声が街中に響き渡った
喉をつぶされた様なひどい鳴き声
だがその鳴き声も一瞬、すぐに街の喧騒の中、雑音のソレへと変わって行く
「……一羽目が、鳴いた」
人混みの中、その流れに逆らって歩いていた一人の少女がふいに脚を止めた
スッと差し出した指先
暫く待っているとその先に、烏が停まった
「……探しに、行く?」
烏へと少女が問う事をした直後
突然にその烏の首が千切れるように刎ね飛んで行った
「 ――」
飛び散る血液、転がった烏の首に、ヒトの流れがピタリと止り
そして叫ぶ声が、至る処から聞こえ始める
「……何て事、するの?」
その烏の血に当てられた少女が見据えた正面
黒いフードを目深に被った人物が現れ、少女の前に立った
唯一見える口元がニヤリ笑みに歪み
僅かに息を吐く音が聞こえた後、少女へと近く寄って行った
「……アナタは、誰?」
間近で交わる視線
フードの男は地面に転がった烏の頭を拾い上げながら
「……朱鷺(トキ)」
自らの名を名乗った
少女は男、朱鷺の名を復唱すると正面から顔を見
「……何故、子を殺したりしたの?」
当事をするが朱鷺は何も答えて返す事はしない
口元に浮かべた笑みはそのまま、朱鷺は身を翻した
手に持っていた烏の首を放り出し、それが嫌な水音を立て潰れ
飛び散った血が少女の頬を汚す
「……ひっでぇな。コレ」
少女の背後、笑われた人影
頬についていた血を拭ってやりながら、憎々しげに舌を打つその人物へ
少女は首だけを僅かに振り向かせ
「……山雀。あの男を追って」
上目遣いで相手・山雀へと言って向ける
山雀は短く了解を返し、そのまま土を蹴った
ふわり浮いて、その身を鳥のソレへと帰ると空から朱鷺の姿を探し始める
その姿はだが見つからず、見えたのは大量の烏の死骸だけ
無造作に山積みされたそれを見つけ、山雀はそこへと降りる
首だけが切断された死骸、その様を眺めていた山雀
その背後、自身に近づいてくる何かの気配を感じ、またヒトの姿を取った
誰かと振り返ってみればそこに、探している本人が立っていた
血に塗れたままの姿でそこに立つ朱鷺へ
山雀は何を言って向けることもなく睨みつける
「……お前、何が目的だ?」
その意図を問うてみるが、朱鷺は答える様子はない
おもむろに烏の首をつかみ上げると、それを口に含み音を立てながらかみ砕き始めた
その全てを飲み込む音が聞こえたかと思えば、朱鷺は山雀へと歪んだ笑みを浮かべて見せ
だがそれ以上は何をすることもなく鳥の姿へと変わるとその場から飛び去っていく
「……あれも(子)か」
飛んで行く様を暫く眺め、一人言に呟く山雀
これ以上は追う事は今は無理だろうと身を翻し少女の処へと戻る事に
「……山雀、あの子は?」
少女からの問い掛けに、山雀はゆるり首を振って見せ
少女はそうかと短く声を返してきた
「……なら山雀。(巣)を、探してきて」
「巣?」
「そう。巣となる(寄生木)を」
「寄生木、ね」
その言葉に瞬間嫌な表情を浮かべて見せる山雀へ
少女は僅かに笑みを浮かべて見せながら
「あの男が本当に私達と同じ(酉)なら寄生木に停まるはず。見つけ出して、殺して」
「穏やかじゃねぇな」
「嫌な、予感がするの」
殺して、と改めて続ける少女へ
珍しく恐怖というものを少女の表情に見た山雀は分かったと短い返事
その身を鳥のそれへと変え、探すたまに飛ぶことを始めた
「……気づいてねぇんだろうな。あいつ」
眼下の景色を眺めながら山雀は一人言に呟き
途中、生えていた巨木の枝へと降り立つ
「寄生木だらけじゃねぇか。この世界は」
この世界はそのものが巨大な寄生木なのだ
そこに寄生し、他の木も生きながらえている
「……この中から巣を探せってか。大苦労だな」
膝をかがめながらつい愚痴る様なソレ
暫くそのまま、辺りを眺めていた山雀の前へ、突然い現れた黒い影
何かとそれを見やればそこに、大量の烏がいた
「お前らはどの寄生木で休む?」
何となく烏達に問う事をしてみれば、その烏達は一斉に鳴く声を上げ
山雀を何処かへと先導し始めた
寝床にでも案内してくれるのだろうか
後について行ってみる事にした山雀

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