《MUMEI》
3.賢者委員会
そこは奇妙としか言い様が無い空間であった。


巨大な球体の内側を床面にして、幾つもの座席が整然と並んでいる。


上下左右、重力の法則とゆうものを全く無視した構造の空間であった。


一体どんな頭の構造の建築家が、こんな奇妙な設計をしたのであろうか?


もしもこの球体の内側で人の活動を可能にするならば、ブライアン・オニール教授の提唱した宇宙空間における人類の居住空間....すなわち円筒を回転させる事によって、その円筒の内側に人工的な重力を発生させるスペース・コロニーと同じ原理を、この球体内で作り出さなければならない。


しかし円筒では無く、完全な球体の内側でどのようにして、そのような人工重力を作りだす事が出来るのかは、謎である。


今その奇妙な球体空間内では、通常な人間なら抱くであろうそうした疑問などは、どこ吹く風と言った面々が、びっしりと座席を埋めて、それぞれが緊張感の欠片(かけら)も無い顔を付き合わせて、重要な会議の前のひと時を下らない世間話をして潰している。


「あー、諸君静粛に!」


ざわめきの中、深みを感じさせるバリトンの声が朗々と響き渡ると、一転して奇妙な会場は静まり返った。


「只今より今年度における前期二回目の『神のペン捜索の報告会議』を開始する。
諸君もすでにお分かりの通り、通常は前期一回、後期一回がこの会議の毎年の
恒例であるが、捜索の中で異常な事例の報告が確認されたため、本日諸君に緊急召集をかけた。
一言で言うなら、かなりの危機的状況である」


その重々しい言葉を受けて、発言した人物からは真上(?)に当たる席から、
緊張感の欠片も感じられない声が応えた。


「あー、世界とは常に危うい均等の上に成り立っているものである。
つまーり、世界は常に危機的状況なのである。
その危機的状況である世界に危機的状況が迫っていると言う事は、つまり議長は世界滅亡が目前に迫っていると言いたいくらいの危機的状況が、目前まで迫っていると言いたいのであろうか?」


議長の口調を真似た発言に、会場の所々から失笑が漏れる。


「重要な会議中なので、私語は慎むようにマルコビッチ君」


議長は特段気分を害した様子でもなかったが、(またか?)と言う眼で少し面倒くさそうに頭上の発言者を、ちらりと見て言った。


「まず結論から先に言わせていただこう。
今回の辺境の調査結果から導きだされた予測....
最悪の場合、第三のカタストロフィーが起こりえる」


「な....何じゃとーーっ!!」


会場の中で一番の年かさらしい白髪の老人が、目玉を剥いて叫んだ。

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