《MUMEI》
叶人A
『その手で他の人にも触れて来たんでしょ!』
 カナの言葉が頭の中でずっとこだましている。
 ホストだった俺のことを“けがれてる”と思っているのだろう。事実、今までにカナの知らない所でたくさんの女と接してきたのだから。
 カナは後で俺が何を言おうと信じてはくれないだろう。
 ―抱いたのも、キスをしたのも、君にしたのが俺の初めてだったということも。
 おもしろ半分で“夜の世界”に踏み入れなければよかった。こんなことになるぐらいなら。

 あの時は生活のためにお金が欲しかったのと、スカウトがあってホストクラブに就いた。巧みな言葉で女性を我が虜にし、数ヶ月でそのホストクラブのNo.1になり、生活に困らない程の収入を稼いだ。
 …そこまではよかった。次第に指名客が増えたのはいいが、その大半がストーカーと化した。ホストクラブだけでは飽きたらず、プライベートな関係を求めてきたのだ。中には俺に抱かれたいという人も出てきたが、俺はその全ての誘いを断った。
 彼女達から逃れるため、当時俺を指名してくれた女性たちの中の1人に、転職活動をサポートしてくれた人いた。黒木あげは(クロキ アゲハ)、ある出版社の社長令嬢で、後にカナの投稿先の出版社の社長令嬢であることを知る。
 俺はあげはのサポートのお陰で、彼女の父親が経営している出版社の、作家の担当者―カナの担当者に就くことになる。
 しかし、あげはも俺とプライベートな関係を求めていた。1人暮らしをしていたがその家を突き止められ、実家も突き止められ、引っ越しをしても突き止められた。最終的にカナの家も突き止められ…。

 カナの担当に就き、誘惑してきた時、ストーカー化しないよう、その心身を立ち直れないくらい滅茶苦茶にしようとした。

 けれど、あまりにも可愛すぎて、白い兎のように健気で、眩しくて、清くて。
 そんな白くて兎のような君の純潔を、黒くて飢えた狼のような俺が奪ってしまったんだ。本来ならば、愛する人に捧げるはずだったそれを、無理矢理奪ったんだ。


 カナ…。今は俺を恨んでいるのかい?それとも、たくさんの女性たちと接してきたことを、汚れてると思っているのかい?


 もし、こんな醜い俺を許してくれるのならば―――…。

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