《MUMEI》
1
その人物は見る度に同じ場所にいた
晴れた日も雨が降る日も、朝も夜も
一体こんな処で内をして居るのだろうと
その姿を何度も見ている三浦 士郎は訝し気な顔をして見せる
あまりにも毎日同じ場所にばかり居るのでわざとその場所をずらしてみたこともあった
だがやはりその人物が立つのは同じ場所だ
「……何やってんだ?お前」
とうとう声を掛けてしまえば、相手はだがやはり動く事をしない
一体何をしているのだろと暫くその様を眺めていたのだが
あまりに暇になり、やめた
溜息を吐き、三浦が踵を返せばその背後
その人物が僅かに動く気配がした
振り返ってみるが、どうやら気のせいだった様で
相手は相変わらずそこに在った
結局、それ以降も状況は変わらぬまま、三浦も等々しびれを切らし踵を返す
手近な自販機にて缶ジュースを一本購入すると、相手の脚元へとおいてやり
気が向いたらの目、とその場を後に
なぜ、放って置かなかったのだろうか
三浦は自身が取った行動に怪訝な表情を浮かべ、そして苦笑を浮かべて見せた
次の、瞬間
後方から突然に鳴り響いた急ブレーキの音
その音に反射的に振り返ってみれば
なぜか赤信号の交差点の真ん中で立ち尽くしている少女の姿が
「お前、何して ――!?」
いつの間にあんな処まで移動したのだろうか
とっさにその腕をつかみ、引き戻してやる
また鳴り響くクラクション、そして罵声
三浦は申し訳ないと頭を下げ、少女を連れその場を離れる
「……嫌、私はあそこに居る」
三原の手を振り払おうと暴れる少女
それを止めようと若干強く手首をつかみ上げた
「……っ!」
瞬間顔を顰めた少女
強くつかみ過ぎたかとその手首を見れば、そこには無数の切り傷があった
古い傷から新しいものまで
長い袖で隠されていたため、今の今まで気づかなかった
「……悪い、痛かったな」
詫びを入れてやり、頭を撫でてやる
暫くそうしていると少女の方も落ち着きを取り戻した様で
さて、これからどうしたものか
この少女に尋ねた処で答えはあまり期待は出来ない
「……とりあえずは学校に戻るか」
ここで立ち尽くしていても仕方がない、と
三原は自身が通っている大学へと向かう事に
「……何で、ここ?」
その意図が分からず、小首を傾げて見せる少女。三原は何を返す事もなく
そのまま向かったのはなぜか学食だった
「……何でも食っていいぞ」
食券の販売機を前にそう言ってやれば
少女は考える間もなくカレーを指差した
それでいいのかを一応問うてやれば頷いて
三原はうどんにでもしようと代金を投入し、そのボタンを押す
注文したメニューを受け取ると、三原は窓際、隅の席へ
律儀にも両の手を合わせるとうどんを食べ始めた
「……食わねぇのか?」
食べようとはしない少女へとスプーンを差し出してやれば
両の手を律儀に合わせ食べ始めた
食事の間会話はなく、もたない間
どうしたものかと三浦が髪を掻き乱したのとほぼ同時に
「あれ、三浦?あんた、今日午前中で講義終わりじゃなかった?」
知った声が掛けられた
その声の主も食事をする処だったのか、トレイを持っていた
そのまま三浦たちと同じテーブルに着く
「……アンタ、何?学食でデート?趣味悪いわね」
座るなりこの言い草
だが現状をどう説明してよいかが分からず無言のままで居ると
少女が小さな音を立てスプーンを置いた
「……私、帰る」
ごちそうさま、と三浦へ向け手を合わせると少女は足早に食堂を後に
追いかけるべきなのだろうか?
椅子から腰を浮かせ、だが其処で止まる
別にこれ以上関わってやる義理などない、と
三原は座り直し、改めてうどんを啜り始めた
「……三浦、あの子いいの?」
「……別にいいだろ」
「別にいいって、あの子アンタの知り合いでしょ?」
知り合い
自身が(知っている)人物をそう呼称するのであれば間違ってはいないだろう
だが、只顔を知ったというだけの間柄
改めて追うてやる必要があるのかとつい考えてしまう
「あんたねぇ。最後まで責任とれないなら関わるんじゃないわよ。あの子、却って可哀想じゃない」
関わるつもりなら最後まで責任を取れと相手

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