《MUMEI》 だーーん! と赤い眼の老人が床を蹴った。 「ぐだぐだ、ぐだぐだとよーー! 」 球形の空間の中心でくるくると回転したと見るや、まるで蜘蛛のようにふわりと議長の机上に降り立つ。 椅子から腰を浮かしかけたアレキサンダー議長は、老人の右手の指に両頬を挟まれて、すぐにぐいっと引き戻された。 マグマのように熱く、異様な臭気の吐息をグハーーっと吐きかけられ、アレキサンダーが顔をしかめる。 「て、オメー言ってたよなー? カタストロフィーが起きるかも知れねーってよぉ? 第一のカタストロフィーから第二のカタストロフィーまでは、わずか20年しか 『もたなかった』。 それから今のこの世界を復興させるために、どれたけ細心の注意と苦労を重ねたか、オメーもわかってるはずだよなー? マルコビッチなんかと違って頭の良いオメーなら、のんきに喧嘩なんかしてるバヤイじゃねー事くらい、わかってるはずだよなー? どうなんだよ、あーー?!」 両頬を万力のような力で挟まれているため、タコ唇のままアレキサンダーがこくこく必死にうなづく。 傍(はた)から見れば滑稽だが、老人の威光(いこう)を怖れてか、誰も笑う者はいなかった。 つまりそれは、この場に居る者の中で実質的な権力の頂点は、議長では無く、この妖鬼じみた老人が握っているとゆう事を、明白な事実として示していた。 「神のペンを再び取り戻したとしても、第三のカタストロフィーが起きたとしたら、今度もまた世界が『復活』するってゆう保証はねーんだぞ? 『復活』できなかったらどうなると思う? オメーらに分かるか?! 『完全なる虚無の恐怖』てやつが?! オメー、心臓の弱い老人を驚かしやがってよぉ、ちゃんと根拠があってカタストロフィーが起きるなんて事をしゃべってんだろうな? チャラい事言ってやがると....」 アレキサンダーは、視界いっぱいに老人の顔が迫って来るのを見た。 老人の口が耳元まで裂けるように広がっている。 口の中には肉食獣のような牙が、びっしりと並んでいた。 「血ぃ吸うたるぞ....」 「ほんひょは、あいあう!ほえはは、ほえをははひはふ!」 (根拠はあります!これからそれを話します!) 前へ |次へ |
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