《MUMEI》
行間2
 一人暮らしを始める一週間前。カナは母と2人で話していた。
「カナ…ごめんね…」
 今にも、母は泣き崩れそうだ。
「本当はカナと一緒に暮らしたい。けれど私と一緒に暮らしていたら、私が死んだら、カナが私みたいに…。それだけはどうしても避けたいの」
 母は父のために、全てをすてて、日々金を稼ぐための人形として、見知らぬ男性と身体を重ねていた。そのせいか、肌や髪は荒れて、身体は傷や痣だらけになっている。
「ママ…」
(離れたくないよぉ…)
「カナ、わかってちょうだい」
 母が優しくカナを抱きしめる。その腕から、離したくない、そういう思いが伝わってくる。
「お願い、私と同じ道を辿らないで。カナには幸せに暮らしてほしいの。だから」
「嫌っ!ママと一緒がいい!寂しいのは嫌なの!」
(1人にしないで…っ!)
 カナは1人娘で、兄弟もいない。学校から帰れば、親は“仕事”で、家にカナただ1人。今までずっと学校から帰って来ては、寂しくていつも泣いていた。
 一人暮らしを始めるということは、今よりもっと孤独な時間が増えてしまう。カナはそれが嫌だった。
「カナはどうなってもいいから…っ!」
(ママ…、一緒に居させて…っ!)
 母は伏し目になって、申し訳無さそうに首を振った。
「そう簡単に、“大事なモノ”を捧げてはいけません!」
 母は吐き捨てるように言った。
(どうして…?)
「カナにはまだ早すぎるわ。それは愛し合う者同士がすることよ」
「ママだって、パパ以外の人とHなことシてるくせに!カナはどうしてダメなの!?カナがまだコドモだから?…ママだけ苦しんでいるのは嫌なの!」
 カナは自分の身体よりも、母の身体が心配だった。少しでも母の負担を減らしたかったのだ。
「…その気持ちだけでいいの。ありがとう。どうしても、」
 ―ガチャっ!
 その部屋のドアを開ける音に、その場の空気が硬直する。
「2人で何やってんの?」

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