《MUMEI》

「何やってんの?」
 父が部屋に入って来た。
「彰(アキラ)…っ!」
 母は彼を威嚇するかのように睨みつけた。
「何、その目…っ!オレに逆らう気か!?あ゛ぁ?」
 ズカズカと父がカナと母に歩み寄る。
「カナに手を出したら許さないんだから!」
 母がさっきよりも強い力でカナを庇うように抱きしめる。
「今はお前に用はねぇんだよ」
「きゃあっ!」
 父の力強い手がカナを母から強引に引き剥がす。その反動で母はその場に倒れ、近くにあった低いテーブルの角に後頭部をぶつけてしまった。
「………っ」
 あまりの激痛に母は呻いた。カナは彼女を助けようと、我が身を拘束する父の腕から抜けようとした。
「ママぁ!」
「行かせねぇよ」
 しかし、圧倒的な父の力がカナを引き戻す。
「パパ、離して!ママがっ!」
「ダメだ」
「あのままじゃ、ママが死んじゃう!」
「あの程度じゃ死なないし。打ち所が悪かったら、な…」
 カナは父の腕から抜けようと、必死に暴れた。しかし、カナの力は父の力にかなうはずはなかった。
「カナ、無駄な抵抗はするな。“アレ”のようになりたいか?」
「今、何て…!?」
 カナは一瞬、自分の耳を疑った。

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