《MUMEI》

叩き折られた机は、いつの間にか新品に交換されていた。


「ドラクル様。これでも召し上がって
気をお鎮めになられては」


老妖鬼の傍らに黒服の大男がスッと近づいて、赤い液体で満たされたグラスを差し出した。
頭髪も眉毛も無い不気味な風貌の大男は、この老妖鬼の傍らに常に影のように寄り添い、仕えていた。
黒服の肩と胸が筋肉で盛り上がっていた。


「む。気が効くな、レンフィールド」


じゅるるるる....


凍った沈黙が支配する場内で、ストローがグラスの液体を吸い上げる音が、能天気に響きわたる。


すると再び老妖鬼の外見に変化が生じた。


まず真紅に輝いていた両目が光を失うと、元の白濁したような老人の眼色に戻っていく....と見るや、
黒い瞳に変化し、キラキラ生気を帯びて光りだした。


変化は眼色だけでは無かった。


白髪がざわざわうごめきながら灰色に変わり始めた。


「プハーーっ。この冷凍生血(なまち)
なかなかイケるぜえ!」


空のグラスを傍らの下僕に放るように戻した時には、老人の外見は初老の段階まで年齢が若返ったように見えた。


周囲の者達は、下僕がグラスをうやうやしく受け取り、ドラクルの背後に慎(つつ)ましく控える様(さま)と、血を飲み若返ったその主人の姿を、息をひそめて悍(おぞ)ましげに見守っている。


「お前らあんまりぐだぐだやってると、喉かっさばいて直飲みすんぞ?
二人ぶん飲んだら、お前らより若返られるしなぁ」


机の上に両足を投げ出すと、椅子にふんぞり返って言った。


「早く会議を始めんかい」

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