《MUMEI》

桐崎 葵は落ちこぼれだった。


もちろん、世間一般的に見れば限りなく完璧に近い人間だったのはたしかだろう。


但し、葵の家族は『完璧』そのものだった。
『完璧もどき』などが、通用するような家庭ではなかった。


完璧を強要した両親は落ちこぼれた、しかも緋い瞳の娘を愛することはなかった。


完璧を愛した両親は、完璧である葵の兄と姉を愛した。


いくら頑張っても得られる称号は『優等生』。



『じゃあ、もういいや』


葵が全てを投げ出したのは小学2年の頃。

人形を操っていた糸がぷっつりと切れたかの様に、葵は動かなくなった。
動くことを苦痛とすら感じた。



そんなある日から約9年。

なので動くことをしなくていい、という選択を今初めて、実行する。


トイレから出て、上へ上へ向かう。



そうして、なんの迷いも躊躇も一切なく、体を空へと投げ出した。



薄れかけていく意識の中で、大口を開けた地面を見た気がした。

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