《MUMEI》

「この部屋を見て追いやられていない、だなんてよく自信有り気に言えるな。お前程稼いでそうな奴が好んで湿っぽい地下室を自室にするなんて、少なくとも俺は聞いたことのない話だ。」

わざと棘のある言い方を選ぶと、思った通りの反応が返ってきた。

「君だけの世界観で決めつけないでくれ給え。僕は此処を気に入っている。」

変わらずに余裕ぶっているが、目が最初よりも笑っていない。こいつにしては珍しくバレバレだ。

面白いが、これ以上からかっても時間を浪費するだけなので、この返答を最後に「変わり者だな。」と話を切った。

「そのくらいで質問は終わりかな?」

「まだだ。どうして俺はお前の自室に居るんだ?」

聞くと、先程とは一転して矢吹が嬉しそうな顔をした。


「…連れ去ったんだ、昨日の夜更けに。君のお母さんが君と面会したすぐ後さ。」

すぐ後に連れ去ったりしたら、俺が居なくなった事に母さんがより責任を感じてしまうだろう。きっと、もう少し長く面会していればって。

「最悪だな、お前。」

分かった上でやる非道は許せる筈がない。

こいつの前で、俺がどれだけ顔を歪ませたかなど覚えていないが、きっと俺史上でダントツだろう。

「何を言っているんだ。お母さんが面会する前に連れ去る事も出来たのに、わざわざ会わせてあげた私に感謝して欲しいくらいだ。」

調子を取り戻してきてしまったらしく、いつものオーバーリアクションが戻ってきた。

「死んでもお前に感謝なんてするか。」

目も合わせずに言うと、矢吹は俯いて「そうかな?」と呟いた。

気に掛かったが、敢えて無視して次の疑問を消していこう。

「で、なんで俺だけわざわざ御足労頂いて連れ去られなきゃなんねぇんだ。他にもMHOプレイヤーは山程居るだろう?」

すると、背もたれに寄り掛かる様な姿勢だった矢吹が、突然前屈みになって俺に近付いた。

「君に聞きたい事があったからさ。」

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