《MUMEI》

暫く憑いて行ってみれそこに、ひときわ歪な容をした木があった
そこに在った人影
山雀の気配気づき、ゆるり振り返ってくる
「やぁ、また会ったね」
まるで子供の様な笑い顔を向けてくる相手
その表情からは何を考えているかがまるで読めず
山雀は一定の距離を保ったまま相手と対峙する
「……君は、この世界をどう思ってる?」
「は?」
「この寄生木だらけの世界、僕達鳥は生きやすいと思う?」
いきなりな問い掛け
だが山雀は答えて返すことはなく、相手を唯見据えるばかりだ
「そっか。君はあの女の下僕だもんね。わかんないか」
嘲る様に笑いだだした相手へ
山雀は矢張り何を返す事もない
「僕ね、全部壊してやるんだ。ナナツノコも、寄生木も」
「……それで?」
全てを壊し、そしてどうしようと言うのか
つい問うてしまえば、相手は更に笑う声を上げ
「だって、全部壊しちゃえば何もなくなるんだから」
急いで考える必要はないだと相手
随分と勝手な物言いをするものだと半ば呆れ
山雀徐に懐へと手を忍ばせ、其処から一丁の銃を取って出した
「それ以上下らん事抜かしてみろ。脳天かち割るぞ」
わざとらしく怖がって見せながら相手は山雀と徐々に距離を取る
その姿を鳥のソレへと変えるとそのまま離れていき、そしてフッと消えた
跡形もないその様に、山雀は派手に舌を打ち
その木の太い枝へととりあえず腰を下ろす
幹へと身を預け、目を閉じてみれば
木々がざわめく様な音が、耳に響いてくる
街中の喧騒よりは耳に心地がいいと、暫く聞き入って居ると
山雀の背後に何かの気配が現れる
何かと向きなおってみれば、そこに居たのは一羽の烏
ナナツノコの一羽だろうか
窺う様に見やれば、烏は飛び立った
山雀の周りを二、三回飛んで周り、まるで付いて来いとでも言いたげに
何があるのかと山雀はその痕をまた追うてみる事に
追うて到着したそこは、村
ヒトの住まう場所がまだあったのかと山雀はそこへと降りてみる事に
この村に、寄生木はない
どういう事だろうかと辺りを見回してみた、次の瞬間
山雀の肩に突然、斧が振り下ろされる
「……お前は、鳥。ここに何しに来た?」
肩に食い込んだ刃
勢いよく飛び散った山雀の血が相手を汚す
そのまま山雀を睨みつけてくる相手へ
山雀はさして痛みなど感じていないかのような表情で見据える
「出ていけ!ここに、寄生木はない!」
向けられるのは、憎悪の念
人は、これ程までに何かを憎めるのかと思うほどのソレに
山雀は、だが何も返すことはない
唯々、相手を見やるだけ
「……何の、騒ぎです?」
暫くそのまま待機していると聞こえてきた声
向いて直って見ればそこに、知らぬ顔があった
誰なのかと山雀が訝しめば
「……あなたは、鳥。けれど、(子)ではない」
山雀の方を見やりながら、その人物は呟く事をする
何をいいだすのかと山雀が顔を顰めてしまえば
「……(子)であれば、全て殺す。私達は、その為だけに生きてきた」
相手は不敵な笑みを浮かべ、そして空を仰ぎ見た
「……子は、後六匹。全て、殺さなければ」
「それで?全ての子を殺して、お前らはどうなる?」
「……お分かりに、なりませんか?この村の現状に」
相手のソレに、山雀は周りを見回してみる
何の変哲の無い、ヒトの村
ここに一体何があるのかを訝しんだ、その直後
どこからか、鳥の鳴く声が聞こえて来た
「……また一羽、鳥へと孵った」
溜息と共に呟く相手
見やる方向を山雀もまた見やればそこに
ヒトとも鳥とも付かない、異様な生き物が微かな足音を立てながら現れた
「あれは?」
顎をしゃくり、相手へと尋ねる事をしてみれば
相手はまた溜息を吐きソレの傍らへ
「これは、寄生木が私達に及ぼす影響です」
まるで愛おしい物にでも触れるかの様に優しく触れたかと思えば
もう一方の手には鋭利な刃物
ソレをどうするつもりなのか
問うよりも先に、山雀はそれを知る事になった
目の前に飛び散る朱、鈍い音を立て転がるヒトの首
「鳥に孵ってしまえばもう戻れない。だから」
「殺す、か。お前らヒトは余程鳥が憎いんだろうな」
「……そうさせたのは、貴方方鳥でしょう?」
山雀を見やる相手の視線が刺す様なソレに代わる

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