《MUMEI》
S2
 今日も“貧血”で倒れて、夢をみていた。
 それはキスして誰かに“飢え”を満たしてもらう夢。倒れた時に見るけれど、さっきの夢はいつもと違った。
 キスの感触が生々しく、何か甘くてトロリとしたモノを感じた。それだけじゃなくて、“飢え”が満たされたの。
 “飢え”を満たしてくれたのは嬉しいけれど、結奈のファーストキスを勝手に奪った。誰かは知らないけど、許さない。今度あったら、ソイツの精気を干からびるまで吸い尽くしてやるんだから!
 一応、レイトに言っておこうかな。精気か何かが吸えたからね…。
 ―ガララ………。
「結奈かい?悲鳴を上げて、何かあったのか?」
「先生っ」
 結奈はベッドから降りて、先生の方へ駆け寄った。
「そんなに慌てて、どうしたの」
「結奈、誰かにキスされちゃった」
「…で?」
「先生、わからないの!?結奈にとって初めてのキスだったんだよ!?」
「オトナの階段登ったんだね」
「そう…。じゃなくてっ!!!」
 レイトはなんか鈍い。本当は気付いているんでしょう?
「唇に何か感じたかい?」
「甘くてトロリとしてた…」
「それが“精気”だよ」
 えぇっ!?
「美味しかったろ?」
 …うん。もっと欲しかったな…。
「アリアドネの呪いの所為かもしれないけど、ね」
「どうすれば、彼にまた会えるかな?」
「次の鼻血を狙ってみれば。いつになるかわからないけど」
 彼に会いたい。会ってその精気をもう一度味わいたい。
「…早く会いたい」
「だからといって、ここに居続けるのは無しだ」
 げっ、見破られた。
「何年お前とつきあってきたと思ってるんだ?大抵はその瞳を見れば見通せるんだよ」
「ムゥ………」
 レイトは「どや」って言いたげな顔をしてる。
「そんなに欲しいのか?」
 ―欲しい。
 レイトの言葉に深く頷く。
「…結奈」
 …?
「気をつけろ」
 レイトは胸ポケットから黒のカラーコンタクトを取り出した。…ってことは、結奈の瞳が紫に染まってる!?
「その瞳は無差別に異性を誘惑するから、これで隠しとけ。貪りたいならしなくてもいいが」
 結奈、コンタクト入れるの苦手なんだよね。でも、隠さないとみんなに怪しまれちゃうし、男どもを誘惑しちゃうしで、自分が嫌になっちゃう。
 レイトからカラーコンタクトを受け取って、洗面台にある鏡を見ながら、それを入れた。コンタクトを入れようとすると、黒目(今は紫色)が逃げるからなかなか入れられない。
 これだから、学校生活がある意味サバイバルなんだよ…。正体がバレないようにしなくちゃいけないからね。
 バレる前に、彼と会えますように…。

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