《MUMEI》

「…適当に座って」
 叶人を追って着いたのは、さっき3人で話をしていたリビングだった。叶人はそこにあるソファーに腰掛けた。カナはミニテーブルを挟んで彼と向かい合わせになるように、ちょこんとそれに腰掛けた。
「何から話せばいいのか…」
 叶人は腕の組み、唸っている。どう切り出せばいいのか考えているようだ。
(カナは…)
「…どうしてホストクラブで働いていたんですか?」
 カナは気になっていたことを率直に訊いた。
「俺がホストになった理由、それは、一人暮らしを始めて生活費に困っていたから。スカウトされたのもあってな…」
(叶人さん、かっこいいもんね…)
「…決して、女性と戯れたくてなった訳じゃない」
「え…?」
 ―ただ、稼ぎたかった。
 それだけがホストだった理由なのだと信じたい。
「…と言っても、信じられないだろ」
 叶人は自嘲し始めた。
(信じるよ…。だって…)
 ―あの時の目は…。
「カナは信じるよ…?」
 その言葉に叶人は目を丸くしていた。
「…君は、純粋すぎるね」
 叶人は立ち上がり、カナの方に歩み寄った。
「か、…叶人さん!?」

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