《MUMEI》

完璧に忘れていた。


しまったと思いながらじっくりと青年を観察した。



「…ふむ」


ベテランと思わせる風格を持った青年の目の奥は何か黒いものが渦巻いているように見えた。


光をうつさない、闇にしか目を向けない彼はなんというか……



「_____可哀想、だな」



同情などではなく、本心で呟いた。


青年は苛々しているようで、我慢の限界が来たのか叫んだ。


「あー!もーうるせぇ!!死ねっ」


そんな叫び声と共に飛んできたものを掴む。


「なっ…」と青年は驚いた声をあげたが葵の目は飛んできたものに向けられている。



「矢、ね……まぁ、毒が塗ってあるかしているんだろうけど」






___そんな遅い矢じゃあ、私は殺せないわよ?




クスリと笑って言った葵に青年は顔を青くする。

そしてそのまま後ろ向きに逃げ帰っていった。




「アリス、怪我はしていないかしら?」

「はい。全く」



そういうとミナはほっ、とした表情を見せた。



ここで気付いてしまったんだ。



彼らは変人なんかじゃない。


すごく優しい人達なんだ、と。




…気付いて、しまった。


私はまだ、他人を信用したいんだと。




傷付くのはうんざりで、苦しい思いをするのももう嫌だった。




「…あきらめた、ハズだったのになぁ」



ボソッと口を出た言葉は誰に拾われる事もなく、風にさらわれて消えていった。

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