《MUMEI》

「あっ…今のはナシ!!独り言だから、気にしないでね!?」

慌てて取り繕ったが遅かった。

「それは……ちょっと気になっただけ。べつに、やましいことを考えて聞いたわけじゃないからね!?」


(なんだ、違った。そうだよね、健志が私を好きになるとかありえないもん)

そう思ったとき、また心がズキッとなった気がしたけど、私はその気持ちを抑えて健志に向きなおる。


「明後日に帰るんだっけ?何時ごろに出発するの?」
やや強引に話題をかえた。

「明後日の…夜、少し早い位の時間帯かな?ちょうど月曜だからね。…さすがにいきなりここから学校にいく勇気はないし……」

「そっか〜、怪我ももう大分治ったんでしょ?じゃあさ、明後日までの残り少ない時間、沢山おしゃべりしようね!」


そして、健志が村を出るまでの時間、私は仕事の時間帯までほとんど健志と話をしていた。



そして………



健志が村を出る日、当日

人間界への入口には、健志と私しかいなかった。

少し前に、村の皆がお別れの挨拶をしにきていたのだが、急にソワソワしだして『私達はこれで。後は若い者同士で……ねぇ』と、ニヤニヤしながら去っていった。

(皆、ニヤニヤして…変だなあ…)

そう考えていたが、やがてその考えも消えた。

「はあ〜、健志との時間はあっという間だねぇ…」
「あれ?そんな、もう会わないみたいなこと言っちゃう?」

健志は、私の顔に自分の顔を近づけた。その顔は、私のすぐ目の前にきて…そして、私の頬に健志の唇が触れた。

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