《MUMEI》
始まりと新護衛
あのあとミナ達の中から一人護衛を選んで、今はその護衛と共に一本道の森の中を歩いている。




ふと隣を見れば肩までしか視界に入らなかったため、少し斜め上を向いた。




そこには満面の笑顔のウサギ耳を生やした美青年がいる。


少々後悔の念にさいなまれそうになったが、選んでしまったものは仕方ない。



ミナが言うには役持ちは強いらしいが、この白ウサギはあの三人の中で一番弱そうに見える。


心配になりながら、はぁ、と短いため息を吐いた。




「…ねぇ、アル。今から私達は何処に行くの?」



アル、というのは白ウサギの名前の愛称の様なもので本名は、アルセント・ローベルトと言うらしい。



「ここから一番近い最初の国である、ハートの国を目指します」



名前を呼ばれる度に嬉しそうにするアルだが、質問にはきちんと丁寧に答えてくれる。


そこら辺は幸いであると言えるだろう。



話をすることもなく歩みを進めていくうちに瞬間、鋭い視線の様なものを背中に感じた。


ただ見られている様なものではなく、的確な悪意を込めての視線で背筋が粟立っている。




勢いよくバッ!と後ろを振り返るが、特になんの気配もない。



気のせいだったのだろうか……と思い、立ち止まってしまっていたので「先に進もう」とアルに声をかけようとして、止めた。



「……」



アルはジッ、と後方を睨んでいたがやがて葵に気がつくとまた優しく微笑んで「行きましょう」と歩きだした。




彼の、裏の一面を見てしまった様な気がして考えこんでいた葵は、アルの冷酷な光を湛えた瞳に気付かなかった。

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