《MUMEI》
悪魔の刃
「やめてぇっ!!」

その悲鳴は、静寂の闇を裂いて二人の戦いに割って入った。

完全に虚を突かれたハイネの剣は、デルタの首を掻き切る寸前でピタリと静止する。

「あなたは‥」

「何故ここに‥」

呆気に取られる両者の間に、悲鳴の主‥ラミアはデルタを庇う形で駆け寄っていく。

「たまたまよ!起きたらデルタがいなくなってて‥何だか胸騒ぎがしたから探しに来ただけ」

相当急いで来たのか、肩で息をする少女の額にはうっすら汗が浮いている。

同時に、あの大声を聞きつけ、バタバタと近付いてくる足音が複数。

ロビーのある一階には客室はない。大方この宿の泊まり込みスタッフだろう。

しかし、これはあまりよくない状況だ。
こんなに人目につく場所で魔剣を抜く訳には‥。

そんなデルタの逡巡は直後ハイネが彼等に向けて放った一閃によって無意味なものとなる。

「邪魔ですよ」

ヒュッと横薙ぎに振られた『凍結の薔薇』。
水属性の青色のマナを含んだ衝撃波が宙を飛び、駆け付けた宿の人々に衝突する。

「う‥うわぁあぁぁあ!?」

「体が‥凍って‥!?」

着弾地点から発生した氷はあっと言う間に彼等の肉体を無慈悲に覆い尽くし、永遠に黙らせた。

何事も無かったかのように再び静けさを取り戻したロビーには、相変わらず身動きが取れないデルタと、ラミア、そしてハイネの三人だけが立っていた。

「どうです?偽物でも、使い手によってはこれだけの力を発揮することができる。ダミーソードも中々バカにできないでしょう?」

冷凍庫のように冷え切った空間の中で、ハイネの表情だけが子供のような無邪気さで花咲く。

「何て‥ことを‥」

対照的に真っ青な顔色で呟くラミア。
よろよろと後退り、その場でへたり込んでしまうその肩を、今は支えてやることもできない。

無理もない。たとえ過酷な旅をしていようと、彼女はまだ年端もいかぬ少女なのだから。

「貴様‥」

代わりに、持てる殺気全てを込めてハイネを睨む。

だが、当のハイネ本人は最早デルタを見てはおらず、何か企んでいる様子でラミアを見つめていた。

そして「あぁ、僕いいこと思いつきましたよ」と一人でに言うや否や、崩れ落ちたラミアの膝下に氷で出来た短剣を出現させる。

「何を‥」

デルタの問いかけを遮るように、芝居がかった口調でハイネはラミアに語りかける。

「ラミアさん。それはチャンスです。貴女が魔剣を手にするための‥ね」

「!」

そこでデルタは、彼が何を言わんとしているかを悟った。

まだ惚けた表情のまま膝下の剣を見下ろすラミアに、ハイネは続ける。

「魔剣は、一振りにつき一人の人間としか契約しない。その契約者が死ぬまでは‥。けれど、彼が死ぬまで、貴女は待てますか?それに‥もし彼が死んだとして、その剣を貴女が継げる保証はありますか?」

「何が‥言いたいの?」

ラミアの声が震える。彼女も、ハイネの言いたいことを察したようだった。

「彼を‥殺しなさい。貴女の手で!」

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