《MUMEI》

この世界の今の風景は、雲一つない青空の広がった初夏位かと感じられる気温の先程より少し深くなった森の中。



アルを信頼はできないが、この世界の情報は必要だ。


もし一人になってしまった時の対処法を考えておかなけれぱならないだろう。


そのため、葵からアルへの質問は続く。



「ここには季節はあるの?」

「いえ、国で雪が年中降っていたり、年中かんかん照りだったりはしますが、季節のようなものはありません。
……ですが、雨が降ったりはしますよ」



相変わらず、すごく丁寧な対応だ。

これで耳がなければいいんだけどな、と思いながら「そう…」と呟いた。



やはり、こちらの世界と元々いた世界は色々と違う部分があるみたいだ。



「そういえば、アル」

「?…なんですか?」

「その耳、しまえないの?」



やはり重要なところはそこだ。


いつまでもこんなウサギ耳の似非美少年を連れていたくない。

というのが本心だ。



歩く度その耳がゆらゆらと揺れ、嬉しいことがあると耳はピン、と立つ。


正直言って、印象がウサギ耳しか残らないようなものである。



「…しまえますけど……この世界では“タブー”なのです」


そういってアルは、「ご希望に答えられず申し訳ありません」と控えめに微笑んだ。


「どうして?」

「…僕は、『白ウサギ』という役を持ったもの。
耳をしまうという事は、その事実を覆す、つまりはこの世界を作り出した者に逆らう、ということになってしまいます」



ますますこの世界は厄介だ。
そんなルールもあったとは。



「タブーを犯すとどうなるの?…『アリス』は何をしてはいけないの?」


「タブーを犯した罰は重いものから軽いものまで。

…全てはこの世界の支配者が気まぐれで決定するものです。

『アリス』はルールにはあまり縛られません。そのため、殺し合いなども咎められないのです」



そう言われ、さっきの青年を思い出す。
ならば、彼も『アリス』だというのか。


そんな葵の疑念を読み取ったかのようにアルは質問の答えを言った。
まるで、エスパーの様に。



「さっきの彼も『アリス』です。
……思い出してください。彼も…緋い瞳をしていたでしょう?……葵の瞳と同じように。

それは、『アリス』の証です。緋の瞳を持つものはこの世界では『アリス』しかいないのです」








_____ならば私は。



この世界に来る事を、決定付けられていたのだろう。



生まれてから…ずっと。






私は、『アリス』だったのだ。

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