《MUMEI》

言われてみればそうかもしれない。これではあまりに無責任ではと
三原はうどんを掻き込むように食べ終えると席を立った
学食を出、さて何処に行ったのやらと周りを見まわしてみれば
存外、その姿はすぐに見つける事ができた
慣れない場所の所為か、どうやら迷子になってしまっているらしい
「……送ってやる」
声をかけてやれば相手はハッと顔を上げ
三浦の顔を見るなり、安堵した様な表情を浮かべて見せる
よく分からない奴
そんな感想を抱きつつも、三浦は少女の手を取り歩き出した
家は何処なのかを問うてやれば、少女は蚊の鳴く様な声で住所を呟くn
聞いてみればごく近所で
三浦はとりあえず少女を送ってやることに
「……で?お前、いつもあそこで何やってんだ?」
「……」
言いたくないのか、返答はない
無理に聞き出すことでもないだろうと、三浦はそれ以上何も聞かずにおいた
「着いた」
聞いた通りの住所に到着
そこは随分と古めかしいアパートで、その外装を見るなり
「……ボロ」
つい、素直に感想が口を吐いて出た
少女は差して気にするでもなく、軋む階段を昇り自室の戸を開く
「……上がっていく?」
お茶くらいなら出せるから、との少女へ
三浦は瞬間考え、とりあえずは上がらせてもらう事に
「もしかしてお前、一人暮らしか?」
物の少なさについ問うてしまえば、少女は小さく頷き
「……お母さん、仕事があってその近くに住んでる」
だから一人暮らしなのだと少女
道理であまり生活感がない、と三浦は室内をつい見回してみる
本当に、只寝る為だけの場所
「……お前、飯は?」
いつもどうしているのかを問うてやれば、相手は台所の方を見やり
家に在るものを食べているとの事
本当に大丈夫なのだろうかと訝しむ三原へ
「……今日は、ありがと。ごはん、美味しかった」
深々頭を下げてくる相手
珍しくその表情はほころんでいる様に見え、三浦も僅かに笑んで見せる
「……今、お茶淹れる、から」
座って待っててくれ、との相手へ
三浦は短く返事をするとその場へと腰を下す
「華〜。帰ってるの〜?」
暫くそのまま待っていると、不意に表戸が開いた
入ってきたその女性は三浦を見、何事かと驚いた様な顔
「お母さん、お帰り」
女性の帰宅を察したのか、持っていたお盆の上には湯呑が二つ
一つは三浦へ、そしてもう一つはその女性へと渡す
「ごめんね〜。最近こっちに帰ってこれなくて。ちゃんとご飯食べてる?」
「大丈夫」
「そう。ソレなら安心したわ。ソレで、この人は?」
三浦へと向いて直り、相手へと尋ねる事をする女性
相手は暫く考えた後
「……友達」
若干、無理があるのではなかろうかと思う説明
だが母親の方はソレで納得した様子で
慌ただしく身支度を整えると、三浦へと向きなおり
「この子の事、宜しくね。じゃ、行ってきます!」
家を後にしていた
随分と慌ただしいと溜息をついてしまえば
「……大丈夫。いつもの、事だから」
その言葉通り、さも当然だといった様子で三浦へと言って見せ
相手も茶を啜り始めた
見た目の割に落ち着きすぎているとは思った
その原因は恐らく、あの母親だろう
「……おかわり、どうぞ」
玄関ばかりを見やる三浦へ
相手は新しい茶を淹れてやると、三浦へと渡して遣る
差しだされたソレを、礼と共に受け取り一口
ホッと、暖かな息が漏れる
「……で?これから、どうする?」
飲み終えた湯呑を近くの卓へと置き、三浦が話を切り出す
行き成りのソレに、なんの事かと首を傾げて見せる相手に
「……何でも、ない。じゃ、俺帰るわ」
茶、ごちそうさまと三浦は立ち上がる
別に、これ以上一緒居てやる理由はないと身を翻せば
三浦の服の裾を、相手は僅かに掴んで止めていた
何事かと首だけを巡らせてみれば
「……明日も、ごはん、食べる?」
一緒に、と続けてくる相手
一緒に、食べてほしいのだろうか
聞いてみたところで答えははぐらかされてしまうだろうと想像し
三浦は一言、分かったを返す
「じゃ、また明日な」
三浦の返事に、相手は僅かに表情を綻ばせ手を降った
可愛らしい、笑い顔
あんな表情も出来るのだと何となく安堵してしまいながら
三浦は相手へと手を振り返したのだった……

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