《MUMEI》 「おい…何急に黙ってんだよ?橘?」 私の異変に気付いたのか、桐生が いつの間にか私の目の前まで来ていた。 「……なんでもないよ…ただ、世間はあまくないなーって思っただけ」 「はあ!?なんでそういう考えになったんだよ?ワケわかんねー!」 桐生が自分の頭をくしゃくしゃっとかきみだす。やがて、桐生は私に向き直ると、途端に頭を軽く下げた。 「…もし、さっきの口論が原因でお前が何か考えこんでんなら……悪かった」 (珍しいな…桐生が謝るなんて) 物珍しげに桐生をじっと見つめると、それに気付いたのか、桐生は顔を赤くして慌てた様子で私の目を隠した。 「お…俺だって、謝ることもあるんだよ!!こっち見んなよ!!」 「ふっ…あははっ!」 私は思わず笑ってしまった。だって、いつも私にケンカをふっかけてくるだけの桐生が、初めて謝ったんだもん。 「笑うなよっ!!」 また桐生が何かぎゃんぎゃん言ってるけど、私はずっと笑っていた。 (こりゃあ貴重だ…) と、そのとき、私は足を滑らせてしまい、桐生の方に倒れてしまった。 「あ…」 私の顔のすぐ目の前には、桐生の顔があった。 おそらく、倒れそうになった私の身体を桐生が庇ってくれたのだろう。多分、今誰かがここにきたら、私が桐生を押し倒しているように見えるんだと思う。 (さすがにこの体勢はまずいかも…) 「悪い、桐生。今退くから…」 「橘って…女っぽいにおいがするな」 前へ |次へ |
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