《MUMEI》

一瞬、ドキリとした。

「はあ…?何言ってんだよ桐生。僕は正真正銘男だっての!」

身体を起こしながら私は何とかごまかした…が……
「うわっ…危ねぇ!!」

暗闇の中慌てて身体を起こしたからか、私はまた足を滑らせてしまった。しかも今度は足を強く打ってしまったため、かなり痛くて動かせない。

「…暗闇の中で動くのは止めたほうが良いな…」

反省しつつ、私はそう呟いた。そして私と桐生は、少しの距離がありながらもやや密着している状態で隣り合わせに座っていた。

…それから約1時間程、私達は黙っていた。
やがて桐生が、おもむろにしゃべりだした。

「なあ、橘…なんか話さないか?さすがにこんだけ黙ってんのも、ちょっと嫌だし…」

桐生が携帯を見ながら言った。

(ああ…確かに。)

委員長…または他の誰かがいつ助けに来てくれるかわからないし、最悪…朝までこのままかもしれないしな。

まあ、どっかで見たような少女マンガ風に ドキッ…朝まで二人きり!?きゃー!!…みたいに思うわけじゃないし、最悪の状況になっても一向にかまわないけど。
(そんときは、離れて寝れば良いしな…ないとは思うが、桐生がホモでないことを祈ろう)

「ああ…なんか話すか。って言っても、話題ないけど…」

「そんなこと言うなよ、橘…!ほら、橘の家の話とかさぁ!!なんなら、俺ん家の話でも!!」

「じゃあ……桐生からどうぞ?」

「はあ!?俺からかよ!!…まあ良いけど…そのかわり、お前の話も聞かせろよ!」
「OK、良いよ。」

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