《MUMEI》

個々ではハッキリとした形を持たないはずの、上空に浮かぶ水滴は
自然の力で群れを作り形を成す。


『あっ、見て!あのおっきな雲、空に浮かぶお城みたいじゃないっ?』

そんな馬鹿げた発想のできる君が、僕は好きだった。



天空(そら)に浮かぶ、無彩色と宇宙の蒼(あお)と陽光の朱(あか)とで彩られた、大きな城。

しかしその城は、一秒と待たずに形を変え
終いには何を残すこともなくその場から去って行く。


――幻の城は儚くも消え失せる。


素直過ぎる君とは真逆にひねくれ過ぎている僕には
そんな風にしか、考えられなくて。

いつも君を呆れさせてばかり。

それでも君はいつも
『それがアンタだから』
と言って微笑いかけてくれた。





普段より幾分も遅い帰り道。
いつも当たり前の様に隣にいる君も、珍しく今はいない。


だからだろうか。
星が瞬く夜空を見上げ、君のことを強く想ってしまうのは。



「…この空を、お前ならなんて表現するんだろうな」




静かに仰ぎ見た視線の先では、薄く広がった雲間に見える星々と
雲が覆っている為に明るい輝きを失った白い円形が、僕を見下ろしていた―――。









直ぐにその有様を変える雲の様な。
儚く消えてしまう泡沫の様な。


いつかは伝えられるだろうか。


そんなものではないこの気持ちを、君に。





――――――――End.



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