《MUMEI》 うとうとと微睡んでしまう暖かな春の陽気の中 僕は一つ、大きな欠伸をして空を見上げた。 視界にはムカつくくらい綺麗に澄み渡った青空と、いい感じの脇役ぶっている真っ白な雲がぽつりぽつりと流れてくる。 僕は空が好きだ。 ――でもだからこそ、常に目の前にあるのに絶対に手が届くことがないという その事実にムカつきを覚えてしまうのだ。 どうして僕は飛べないんだろう。 いつも思うその疑問を、再び頭の中に浮かべた時 ヒラリ、と あの青空よりもムカつく嫌な奴が現れた。 ヒラヒラと、ふわふわと。 これ見よがしに僕の視線のちょっと上、手を伸ばせば丁度届きそうな辺りを 捕まえてみろと言わんばかりに優雅に舞っているのは、黒い蝶々。 見ていると段々うずうずしてきて手を出すが、いつも簡単に避けられる。 上に行かれると、ジャンプしたって届かない。 そんな時は、僕の自慢の金色の瞳で訴える様に じっ、と見据える。 ―――僕とお前、同じ様な色使いの二人なのになんでこんなに違ってるんだ。 黒い羽に黄色い模様。 黒い毛と金色の瞳。 そりゃあ、黄色と金色は少し違うかも知れないけどさ…。 と、ちょっぴり僕が落ち込んでいると ふわっと目の前にまで降りてきた。 最早反射的に手を上げて狙いを定めた………筈なのだが。 僕はいつまで経っても動けないでいた。 私からすれば、このふにふにした手の方が羨ましいけどね。 とでも言わんばかりに、構えた手に止まられてしまったのだ。 暫くそのまま固まっていたのだが、不意に蝶は飛び立った。 空を飛べるのは良いことかも知れないけど、地を駆けられるのも良いこと。 十人十色、だよ。 だからこそ憧れるんだけどね。 まるでそんな風に慰められている様な気がして、また手を出そうかとも思ったのだが 止めておいた。 代わりに "なんか上から目線だな…。" という抗議の意味を込めて 「にゃあ」 と、一声鳴いてから、僕は昼寝をする為にいつもの場所へと駆け出した。 ―――ふと振り返ると、先程までいた所よりも遥か上空を 黒蝶は舞っている。 ムカつくけど…嫌いじゃあないんだよね。 今度はしっぽを揺らしてのんびりと歩き出しながら、僕はそんな風に思ったのだった。 ――――――――End. |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |