《MUMEI》

「(子)ではない鳥は全てが寄生木の糧となる。そうなってしまう位ならいっそ――」
殺してしまった方がましだと吐き捨てる相手
山雀は何を言う事もせず、その相手を見やっていると
「お父さん!!」
叫ぶ声が聞こえ、倒れ伏したその肢体に駆け寄っていく人物が
「お父さん。お父さんってば!!」
まるで物の様にそこに転がり、既に事切れているその男に叫ぶ声を上げる
その様を、周りの人間は皆眺め見るばかりだ
「……してよ」
俯いてしまったその人物が震える声で呟いた何か
聞こえなかったと見下してやれば
「……アンタ、鳥でしょ。返して。お父さんを、返してよ!!」
胸倉を掴まれた
向けられる、あからさまな憎悪に、だが山雀は何を返す事もせず
相手の手を振り払おうと身を翻す
「待ちなさいよ!!」
怒鳴る声を上げ、山雀の腕をお掴み上げた、次の瞬間
肉が裂ける様な湿った様な音が聞こえ始める
何事かと改めて見やれば、その相手の背中の皮膚が裂けるソレで
割れていくそこから、漆黒の羽根が姿を現した
「矢張り、鳥の子は鳥、と言う事ですか」
その様を眺め、そして呟かれた声
握ったままの刃物を、その相手へと向けながら
「……ごめんなさい。もう、救っては上げられない」
憂う様な表情
ゆるり振り上げられる刃物に、相手の表情が徐々に強張っていく
「……嫌、私……嫌ぁ!!」
降り降ろされた瞬間、反射的に目を閉じてしまう相手
ヒトと言うものはなぜこういう時に動けなくなってしまうのだろうか
自分が死ぬかもしれないという、こんな時にさえも
山雀は派手に舌をうち、相手の身体を腕に抱くとふわり飛んで上がった
「お待ちなさい!!」
叫ぶ声が聞こえてきたが山雀は振り返る事はない
僅かに一瞥をくれてやるだけでその場を後にしていた
「離して、離してぇ!!」
動揺し、暴れだす相手
そのまま泣き出してしまったらしく、肩が揺れ始める
「……なりたく、ない。鳥に、なんて」
泣く事ばかりの相手に山雀は徐々に苛立ち
いっそ、このままここで殺してやろうかと舌を打った、次の瞬間
「……その子、新しい(子)だね」
ふわり目の前に現れた影
そちらを見やってみればそこに朱鷺の姿
たまま嬉しそうに笑みを浮かべたまま山雀と対峙する
「……ねぇ。その子、殺していい?」
僅かに視線をずらし、山雀の脇に抱えられたままの相手を見やる朱鷺
表情は穏やかに縁でいるように見えるがその目は刺す様に鋭く
その視線に、相手が息をのむ音が聞こえてくる
「……(子)を殺せば親が鳴く。何処に居るんだろ。すごく楽しみだ」
喉の奥で押し殺す様に笑っていた時だったが
その声は堪え切れなかったのか徐々に外へと漏れ始める
朱鷺が等々声を上げ笑い出してしまえば
その恐怖に耐えかねたのか、相手が山雀の腕を振り払った
「嫌ぁ!!」
叫ぶ声を上、地べたを這う様に逃げ出す相手
山雀の引き留める声にも聞く耳を持たず、そのまま何歩分進んだだろうか
その行く手を阻む様に朱鷺がその前へと立ちはだかる
「……ねぇ。山雀だっけ?何で僕の邪魔するの?」
相手へと触れようとした時の手を払い退ける山雀へ
朱鷺は不満も顕わに唇を尖らせる
なぜだと改めて問うてくる朱鷺
だが山雀は答えて返す事はせず、銃口を朱鷺へと差し向けた
「……答えてよ。それとも君は、言葉が分からない?」
嘲るような朱鷺の声
向けられるその表情に、相手するのは馬鹿馬鹿しいとでも山雀は思ったのか銃を下げる
「……撃たないんだ。つまんないの」
山雀のソレに朱鷺は唇を尖らせ身を翻す
そしてその身を鳥のソレへと変えると、朱鷺はそのままその場を後に
「……私、助かった?」
朱鷺の姿が見えなくなるなり、相手はその場へと座り込んだ
安堵の溜息を吐く相手へ
「安堵している処悪いが、今から行く処がある」
着いて来いと相手をまた抱え上げた
行き成りのソレに、相手は何処へ行くのかを喚き、そして叫ぶ
言った処で分かるでもないだろうに、と山雀は僅かに溜息をつき
何を告げてやるでもなく、ふわり宙へ浮いた
暫くそのまま飛んだ後、山雀が降り立ったのは一本の寄生木
そこに、あの少女がいた
「……まだ、完全ではない」

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