《MUMEI》

―――――――。




目を覚ますと、視界いっぱいに青空が広がっていた。



雲一つない真っ青な空。
透き通る様な青さに、気味の悪ささえ覚える程だ。



手や足など、至る所の感覚はまるでなく、意識もどこかぼんやりとしたまま。





――…ここは、どこだ?





それだけのことを思うまでに、一体どれ程の時間を要したのだろうか。

ふと視線を彷徨わせると、左右のどちらにも、白い壁がまるで距離感無く視界に入った。

どうやら「僕」というものは、道の真ん中で仰向けに寝転んでいるらしい。


少し億劫に思った様な気もするが、身体は宙に浮くかの様にふわりと起き上がる。

改めて周りを見ると、「ここは西洋の街なのだろうか」と思わざるを得ない様な風景が広がっている。

何物にも染まらぬ真白な家々が、所狭しと建ち並ぶ。
その存在感はまるで希薄で、境界線があやふやだ。

しかし。
意外と近かった距離で、前も後ろもそんな家々が犇めき合っているとなると、「僕」は取り囲まれ見下されているかの様に感じてしまう。


よく見ると、それぞれの家には窓があるのにも関わらず、中の様子は全く窺えずに只々青い空を反射して映しているだけである。




こんな不思議な場所で、こんな不思議な現象に陥っているというのに、何故か「僕」は懐かしさを感じていた。


理由なんて分かったものじゃあない。
だけれど、「僕」はここを知っている。

そんな気がした。






そして、気付くと「僕」は動き始めていた。

狭い路地を通り、階段を上り。
それでも景色の変わらない街中を、「僕」は故郷に帰ってきたかの様な不思議な感覚を自覚しながら進む。

足の感覚は未だ戻らず、誰かに糸で操られているが如く、意思の感じられない動きで歩を進めていく。


先程までより意識はハッキリとしているものの、どうしてこんなことが、と思うよりも
進むにつれてどこからともなく湧き上がり、より一層鮮明になっていく懐かしさに快感を覚える方が強かった。






そんな状態のままある程度進んだ後、足は自然と一軒の家の前で止まった。

家は、なんの特徴がある訳でもなく、周りに溶け込むように只ひっそりと佇んでいるだけに見える。


だが、なんの特徴もないと思っていたその家は、ほんの少しだけ、扉が開いていることに気付く。



――その時、どこからか声が聞こえた。



《こっちだよ》




…「僕」を呼ぶのは…誰?





音にならない声を上げ、問い掛けるも声は続ける。



《こっちだよ》



君は一体…誰なんだ。
どこから「僕」を呼んでいる?



《こっちだよ》



声と同時に、少しだけ開かれていた扉が、ゆっくりと開け放たれた。


――「僕」を、誘っている?




誘われるままに扉に近付くと声は次第に大きくなっていく。
しかし、扉の前に着くと声はピタリと止んだ。


再び声が聞こえることがないのを確認した後、「僕」は何の躊躇いもなく、扉の中に吸い込まれていった。

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