《MUMEI》

そして、放課後。
私と戸田くんは教室で二人きりになった。

「で、悩みって?」

威圧感ありまくりな態度で言ったら、即応えてくれた。

「実は、最近仲が良い先輩に、俺…パシりにされている気がして…」

(あ、やっと自覚したのね。)

私の知る限りは、その先輩が戸田くんに近付いたのもパシり目的なもんだから、ほぼ出会い頭からパシられてたと思うけど…今の戸田くんにそれを言ったらショックを与えるわね。
…でも、手っ取り早く終わらせたいから言っちゃおう。

「あのね、戸田くん…実はね」

私はさっき思ってたことを全て話した。すると、やはり戸田くんは目を下に向けて暗い表情を浮かべた。

「そう…やっぱりそうなんだ。…親友とも思えた人なのに…」

自分の心の傷口にさらに傷つく言葉をえぐるように言ったため、戸田くんは涙目になっていった。

(あーあ、馬鹿ね…余計なことをいうからそうなるのよ)

「うっ……ぐす…」

今度は泣き出して…まったく、泣き虫な男ね。たかだか友達一人に裏切られたぐらいで涙腺イカれるの?
ホント、馬鹿ね…泣けばいいって思ってるのかしら?

「ごめん、花崎…すぐに泣き止むから」

ええ、出来るだけ早くそうしてちょうだい。私、帰りたいし。

「………」

だけど戸田くんは一向に泣き止む様子ではない。ただ静かに、床に涙の雫を流していた。

と、そのとき私はイライラしているのとは違う、鉛のような感覚があるのに気づいた。
その鉛みたいな感覚は、私が心の中で戸田くんの悪口を言い続けるごとに大きくなっていくようだった。


戸田くんの悩みを聞き出してから30分が経とうとしたとき、私はその感覚がなんなのかがわかった。

だが…自分でも信じられなかった。

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