《MUMEI》
下(3)
………え?



ボロボロと、涙が溢れていた。




なんで…涙なんて………、ただのミサンガなのに……。




左手に付いていたのは、シンプルなミサンガだった。
ビーズの一つさえ付いていない、紅一色のミサンガ。

周りに白と青しかない所為でより一層、紅の存在感が増している。


なんでミサンガなんて付けているんだっけとか。
どうしてこんなに目立つ物に今まで気付かなかったのかとか。

そんなことを頭で考えるよりもまず、触れて確かめていた。


すると込み上げてくるあの懐かしさ。




……いや、懐かしいんじゃない。

もっと熱くて…涙が止まらなくなるくらい強い気持ち。



狂おしい程――…愛おしい。


いなくなると哀しい。
それは、こんなにも愛しくて恋しい人だから。

だから、「僕」は――――




そしてやっと、あの声が。



《こっちだよ!!》



パキン、と、何かが割れた音がした気がする。


それは、本当の『自分の意識』が目覚めた音だったのかも知れない。




…なぁんだ……お前だったんだな…。




眩暈があったことなどすっかり忘れて、スッと立ち上がる。


心の中にあったモヤモヤも全て消え去って、とても晴れやかな気持ちになれた。

そんな気持ちに呼応してくれているかの様に、空からは雲がなくなり青天が広がっている。


そしてそのまま。




………―――――。



ポツリと一言呟いてから、空の中へと身を投じた―――。




















目を覚ますと、視界には真っ白な天井が広がっていた。


蛍光灯の光が目に眩しい。

身体中がズキズキと継続して痛みに苛まれているが、頭はぼぅっとしてハッキリしないでいる。
何にしろ、身動きが取れない。


全身を確認することは出来ないが、至る所に包帯が巻かれている様子だ。




――…ここは、どこだ?




どうにかして横を向くと、寝ているベッドの脇には
いつも見慣れていた、でもだからこそ一番大切なアイツが号泣しながら何か叫んでいる。


なんか音が遠くに聞こえるし、泣きすぎていて何て言っているのかよく聞き取れない。




でも。





あぁ……よかった。


コイツが、ちゃんと生きてて。





「――!………っ!!」


未だに泣き叫び続ける彼女の手を、辛うじて動く左手で握る。

その左手には、紅いミサンガ。


――コイツが、くれたもの。




「…よ…かった……」

「――え?」


手を強く、握り締める。


「良かった…助け、られたんだ、な……"俺"」

「っの…ばか……!」


"馬鹿"は酷ぇや。
 

そう思いながらふっと彼女から目を離すと、ベッドの横にある机の上に一枚の写真があるのが見える。

――白壁の家々が所狭しと建ち並ぶ、西洋の街並みの写真。

『いつか二人で行きたいね』と
話していた場所。


くすり、と軽く笑ってしまった。


「………?」

「――俺の、こと…呼び続けてくれて……さんきゅ」

「え…聞こえて……?」

「……いや…違う、か」


繋いだ手を握り直し、しっかりと目を見て言う。


「――…ありがとう」


そして。





「ただいま」






――――――――End.

前へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫