《MUMEI》

その人物は桐生だった。

「あれ?話の邪魔しちまったか?わりぃ…」

そう言って、来た道を戻ろうとする桐生に、私より早くおば様が桐生を引き止めた。

「あらぁ、スッゴいイケメンねぇ!!橘さんのお友達かしら?もしかして彼氏だったりするの?」

おば様の言葉に、私だけでなく桐生までもが表情を強張らせた。そして、桐生が口を開く前に、私がとっさにおば様に言った。

「そ…そんなことないですよ!!友達ですよ、友達っ!!な、桐生?」

そう言って桐生に目をやると、我にかえったかのようにハッとなり、「ああ、そうですよ!!」と、私の言葉に合わせて言った。


やがて話こんでいたおば様がスーパーに買い物に行くため、近くに留めていた自転車をとりに行き、そのままお別れの挨拶をして解散した。

「悪い、桐生…あのおば様、最近色んな漫画読んでて…多分、ソッチの漫画を読んだんだろうな」

数分経過しているにもかかわらず、今だに言葉ひとつ発さない桐生を見かねてぎこちなく大嘘をついた。ちなみに、私の言ったソッチの漫画というのはBL漫画だ。実際に読んだことはないけど…

すると、桐生はやっと重い口を開いた。

「あ…ああ、そうか…」

だが、発した言葉はそれだけだった。


結局、何故桐生が私の家にわざわざ来たのかはわからなかったが、その理由を聞いても全く会話が成立しなかったため、私と桐生も早めに解散した。…おば様に言われた「彼氏」という言葉がかなりショックだったらしい。
おば様は私が女だって知ってるから普通に言ったけど…桐生は私のことを男だと思ってるからな、そりゃショックだよな…
心の中で桐生に謝り、今日は終わった。

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