《MUMEI》
渡された短剣
「やめておいたほうがいい」
彼は僕の肩をつかんで、そう言った。
「離してくれ!」
僕は彼の手をふりほどこうとした。
しかし、ふりほどけなかった。

路地裏へ連れていかれた僕は、ようやく落ち着きを取り戻し、改めて彼に礼を言った。
「ありがとう」
「お前には水の借りがあるからな」
義理堅い男だ。
助けてくれたことには本当に感謝している。
しかし僕は行かなければならない。
あの騎士を倒し、皆の仇をとり、そして僕は・・僕は・・それからどうするのだろう。
「やっぱり行くのか?」
気遣ってくれたのか彼は僕にそう言った。
「ああ、行かなきゃいけないんだ」
「お前はあの騎士に勝てない。もし勝てても、それからどうする?復讐の先には何もない」
確かにそうだ。相手は仮にも騎士、僕なんかがかなうわけがない。
「それでも行かなきゃいけないんだ!」
座っていた彼が立ち上がった。
行くのだろう、なんだか寂しかった。
だが彼は、すぐには行かなかった。
腰から一本の短剣を取りだし、僕に言った。
「これはお守りだ、きっとお前のことを守ってくれるから持っていけ」
そう言って彼はその場から立ち去っていった。

本当にありがとう。
何度も心の中で礼を言い、僕は歩き出した。
例え負けても、勇敢に戦うんだ。
伝説の月の騎士のように・・・

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