《MUMEI》
初バイト
桐生とおば様となんやかんやあった数日後の朝、私はとあるチラシをじっと見つめていた。
それは、バイト募集のチラシだった。

(そういえば、バイトなんてしたことないな…)

もういい年だし、親の金で遊んでるって思われたくないからな…夏期のみ出勤OKのバイトでもして、一人暮らし用の金貯めるか…などと考えていたのが、昨日のこと。


そして面接をパスした今日、さっそく働くことになった。余程人手が足りてないらしい。
……それはわかったが…


いかにもレトロな外観、
一歩中に入ったらお化け屋敷風な血みどろの壁に床にテーブル…薄暗い照明。

(なんだ、このザ・お化け屋敷な感じのレストランは!?)

だが…以外にも人気があったらしく、店内には客が溢れるほど満席だった。

(ありえん…!)

「すみませーん、注文いいですか?」

客の呼び掛けで私は我に返り、接客に専念した。

「はい、ご注文ですね。」
ニコニコと爽やかな笑顔で接客している私は、はやくもこの店の人気者だ。

客の注文を料理長に伝えていると、他の店員が私に話かけてきた。

「人気者だね〜橘さん!でも、それはいいんだけど…なんで男装してんの?」

「え…あー、趣味というか家庭の事情というか…」


最初に説明し忘れていたが、私は今、学校のときと同様男の格好をしている。

(本当は普通に女の姿で接客する予定だったのに…)

…そう、今日の朝、面接をパスしてすぐのことだ。
さっそく仕事に取りかかろうと、女店員の制服に着替えようとしたそのとき、あのアホが入ってきた。


カランカランッ

「いらっしゃいませー!」
「えっと、どの席にするかな……ってアレ?橘!?」

そのアホというのは、桐生だった。なんでこうタイミング悪いのか…

「どーしたんだよ、お前こういう感じの店に入るっけ?」

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