《MUMEI》
曲がった優しさ
(まさか、戸田くんが泣いてるのが悲しいの…!?)

自分では認めなくなかった。だが、そう思ったとたんに心の鉛みたいな感覚がスーッと溶けていくようだった。

(違う、私はただはやく帰りたいだけ!)

言い聞かせるように心の中で何度もそう言った。
そんな中でも、戸田くんは静かに泣いている。


(………っ!)


私の中で、何かが切れた



「ウジウジ泣いてんじゃないわよ!!うっとうしいっ!!」

「え…花崎……?」

きょとんと私を見る戸田くんに、私は言いたいことを全て言った。


「友達一人に裏切られた程度でそんな泣くんじゃないわよ!!一人減ったなら一人増やせばいいんだから!!」

(あら…?何言ってんのかしら、私は…)


「友達増やせって…そんなこと言っても、この学校の人とはほとんど友達だし、友達じゃない人なんて…」

涙が止まったはいいが、言い訳がましく口をモゴモゴさせる戸田くんに私は、とんでもないことを口走った。

「私がまだ友達になってないじゃないの!」


(ん!?何言ってんの私!?)



「た…確かに!」


(納得するんじゃないわよ!)


「じゃあ…お友達になりませんか?」


(さっきまでの涙はどうしたのよ!?)


だけど、今私が辛辣な言葉…もとい、何かしら言い返したらこの果てしなくどうでもいい口論は延々と続くだろうし…


「……はぁ…」


諦めモードに突入した。
その上私は今帰りたい気持ちでいっぱいだったため、何としてでも即刻この下らない口論を終わらせようと努力してしまった。


「わかったわ…私が友達になってあげる。だから、いい加減泣き止みなさい」

「う…うん!」


とっくに泣き止んでいた筈だったが、頬をつたった涙を拭い、満面の笑みで私にお礼を言って鼻歌をうたいつつ帰って行った。


「はぁ…やっちゃった」

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