《MUMEI》

「珍しいな、お前がこんな店に入るなんて」

「橘こそ、バイトしてたなんてね」

「バイトっつっても、今日からだけどな」


思えば、こうやってちゃんと話すのは久しぶりだ。
だからかな、少し緊張してしまって、会話が続かない。

「橘さーん!お客様の相手するのもいいけど、やることはやってね〜」

「はい、すみません!」


店長から優しめにお叱りを受けたあと、彩原は私に対して謝ってきた。

「悪い、引き留めちゃって…バイト頑張ってね」


「おう、んじゃ行くわ」

仕事に戻ろうとしたそのとき、私は歩みを止め、再び彩原のいる方向に身体を向けた。


「あのさ彩原、バイト終わったら話せないか?」

「え?別に、構わないけど…」


疑問がありそうな目で私を見ていたが、了承してくれた。

(最近話してないし、これを機にまたゆっくり話すのも悪くない)


軽い気持ちで誘っただけで、他意はなかった。

そして私は仕事に戻る。

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