《MUMEI》 山雀へが連れてきた相手を見やるなり小さく呟く そして相手をまじまじと眺め見た後 「……貴方には(親鳥)になってもらう」 言って終わりに少女が徐に枝を手折り それを相手へと差し向けた 「……何、するの?」 無言の恐怖に戦く相手 暫く少女は無言で対峙し、そして次の瞬間 「……さようなら」 感情の籠らない声と共に、その枝を相手へと突き立てる 何が起こったか分からずに居る様子の相手 口を薄く開き、何かを訴えようとするがソレは声にはならず 喉をする様な息の音を唯漏らすばかりだ 「……山雀。お願い」 その様を暫く眺めていた少女 僅かに溜息を漏らすと山雀を呼ぶ それ以上は何を語らずとも少女の言わんとしている事が理解できたのか 山雀はやれやれと苦笑を浮かべ、少女へと左手を上げて見せた 「行きますか」 独り言の様に呟き、山雀はふわり宙へと浮く 林立する木々を足場に伝っていき、そして到着した其処は ひときわ巨大な木の頂、そこには巣が据えられていた その巣へと降り立ち、山雀は抱えている相手放るように下す 怯えの色も変わらぬまま山雀を見上げる相手 なぜ、と戦慄く唇がその言の葉を模った だがソレは声として容にはならず その言葉を最後に相手は意識を手放していった 完全に事切れ、横たわる相手の身体へ 大量の烏が暫くして群がり始める 鋭い嘴が肉を啄む嫌な水音 肉が抉られているだろうその惨状を好んで見たいとは思わない、と 山雀が目をそらした、その直後 烏の雛が一羽、そこへと現れた 「……こいつの雛になってやるつもりか?」 大量の烏がその肉を啄む中 その一羽のみが相手へと寄り添うことをする まるで親鳥に擦り寄っていくようなその様を見、山雀は表情を和らげ 「そばに、居てやれ。せめてソレが鳥としての役目を終えるまで」 指先でその小さな頭を撫でてやりながら言って向ける その言の葉を解しているのかいないのか ソレを知る術は山雀には無かったが 相手とその雛をそこへと残し、山雀は取り敢えずそこを下る 「……あれは、何日くらいで鳥として孵化しそう?」 下へと降り立ってみれば、あの少女がそこに居た どうなのかと様子を窺ってくる少女へ 山雀は手を上げ、首を横へと振って見せる 「……そう」 僅かばかり愁いを帯びた様な表情を浮かべる少女 だがすぐに俯かせていた顔を上げ 「山雀、頼まれてくれる?」 「何?」 「餌を、探してきて。雛と、親鳥の」 「人間か?」 「そう。ソレも、なるべくなら欲深い人間がいい」 その方が罪悪感が薄れるから、少女 ヒトを餌として殺める事に未だ罪悪感を抱いてしまっている少女へ 山雀は苦笑に肩を揺らすと頭の上へと手を置いた 「……お前が、気にする事じゃねぇだろ」 この言葉は、目の前の少女に取って何の気休めにもならない ずっと、この生死の営みを間近で見てきたのだ 今更、何を言った処で慰めにもなりはしなかった 「……ありがとう、山雀。私は平気よ」 全てを受け止める覚悟は当にあるから、と少女 そう言われてしまえば山雀にそれ以上続けられる言葉はない 唯々、その意志に従ってやるばかりだ 行ってくると一言で山雀は脚元を蹴り付けると、その身を鳥へと変えそこから飛ぶ さて、どの人間にしたものか 眼下にヒトの群れを見下ろしながら飛ぶことをしていると 「こんな処で何してるの?」 聴いた事がある声が背後から聞こえてきた 手近な木へと停まる事をした山雀がヒトの容を成し その正面に、声の主が立つ 「ねぇ、何してるの?」 声の主は、朱鷺 何度も何をしているのかを問われ、いい加減山雀も苛立ちを覚えた 相手してやるのもめんどうだと山雀は舌を打つ 返答がないことに機嫌を損ねたのか、朱鷺は頬を膨らませ 「君ってば、本当につまらない」 愚痴るように呟くと、朱鷺はその場を後に 結局、何をしに来たのだろうか? 飛び去って行く時のその姿を名が見ながら山雀は怪訝な顔だ 暫くその場に留まっていた山雀だったが いつまでもこの場に留まった処で得るものなどないと改めて飛ぶ事を始めた 今はあの人間を親鳥として孵化させることが優先だ、と 前へ |次へ |
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